交通整理





「今日はまた一段と人が多いなぁ」
上司に言われ周囲を見回せば確かに人が多くて、今日は休日だったっけ?と静雄は首を傾げる。
近くでドラマの撮影をしてるらしいと話しているのが居て、なるほどそんな理由かと上司は頷いた。
60階通りは歩くのさえも人にぶつかって、お祭りみたいだなと静雄は思う。ちらほらと警察官の姿が見えるから、一応は交通整理でもしてるのだろうか。全く警官の言うことなど聞いていないようだ。
上司とはぐれないようにしなくては、と思っていた矢先、人込みから伸びてきた手に腕を捕まれた。
ぐいっと突然引っ張られて体のバランスを崩したのを抱き留められた。鼻につく香水の香り、真っ黒な出で立ち。折原臨也。
静雄が驚く間もなく、そのまま唇が重ねられた。
振り返った上司がそれを見て硬直する。今まで騒いでいた周囲の人間も、ピタリと動きを止めた。
人だらけの60階通りは、いきなり静まり返る。
臨也は静雄の頭に手を掛けて口づけを深くした。静雄はまだ事態が把握できずにいて、サングラス奥の瞳は驚きで丸い。
その間にも周囲の硬直は広まって行って、いつの間にか殆どの人間が立ち止まっていた。
やがて唇を離すと臨也はニッコリと静雄に向かって微笑む。
「交通整理に一役買ったねえ、シズちゃん」
「…い、いざやああぁぁぁぁっ」
その後、自動販売機が池袋の宙を舞ったという。

100804 09:08
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