真昼の月





月だ。
静雄は窓から見える空を見上げ、僅かに目を細めた。
青空に浮かぶ白い月。今日は満月か、それに近い月なのだろう。月が明る過ぎるから昼間でも見える。子供の頃はそれがポテトチップスみたいで、いやに美味しそうに見えたものだ。
「随分と余裕だね」
自分の上に覆いかぶさった臨也が、そう皮肉を口にする。
静雄は視線を月から臨也へと戻すと、口角を吊り上げて笑った。
「月に嫉妬か?」
情けねえ奴。
そう言ってやれば、臨也の眉根が不機嫌そうに顰められた。いつもの余裕がある態度から見れば、随分と珍しい。静雄はそれに溜飲が下がる思いがして、また笑ってしまった。
「冗談だ」
譲歩してそう言ってやる。
すると臨也はますます苦虫を噛み潰したような顔になり、静雄の腕を掴む手に力を込めた。
愛撫する臨也の手が、性急になってゆく。文句を口にするより、行動で静雄を黙らせることにしたらしい。シャツを捲り、脇腹を撫でて、臨也は静雄の情慾を確実に高めて行った。
「…っ」
声を漏らさないように唇を噛めば、今度は臨也がくすくすと楽しげに笑う。全く何てくそったれだ。早くくたばりやがれ。
悪態を散々心中で呟き、静雄は臨也の背中に腕を回す。熱に浮かされた行為の中で、後でこの背中に爪でも立ててやろう。きっと何もかも終わった後に痛がる筈だ。
真っ昼間から部屋のフローリングに押し倒されて、大きな窓から見えるのは白い月。
月は自分達の背徳的な行為を眺め、何を思っているのだろう。
「まだ見てるの」
咎めるような臨也の声に、静雄は目を眇る。
「しょうがねえだろ、嫌でも目に入るんだよ」
「シズちゃんは俺のことだけ見てればいい」
臨也の手が下肢に触れ、静雄の体がびくりと跳ねた。
「本当に月に嫉妬しちゃいそうだ」
口端を吊り上げて、臨也は人の悪い笑みを浮かべる。楽しげな口調とは裏腹に、その赤い双眸はちっとも笑ってはいなかった。
──…もう嫉妬してんだろうが。
そう言いたいのを堪え、静雄は自分から臨也の唇を塞ぐ。
舌が互いに絡められる頃には、もう頭から月の事は無くなっていた。



2011/03/12 20:54
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