不機嫌くんと御機嫌くん





ああ、タバコが吸いたい。


静雄は苛々としながら雑誌をめくった。普段なら見向きもしないファッション雑誌には、弟が笑顔で載っている。たかが4ページの為に630円は高い気がする。
暫く弟のインタビュー記事を読んでいたが、直ぐにまた苛々が募ってきた。
一度意識し始めるともう駄目で、テーブルに置きっぱなしのタバコが気になって仕方がない。ああ、どこかに隠しておけば良かった。
灰皿はテーブルの下。ライターはタバコと一緒にテーブルの上。腕を少し伸ばせば全てに簡単に手が届く。

ああ、タバコが吸いたい。

今からでも見えないようにこれらをどこかへ隠そうか。いや、今更だ。寧ろ手元にないと気になってしまうんじゃないか。
静雄は雑誌を読むのを諦めて放り投げた。こんな時テレビでもあれば気が紛れるのだろうか。生憎静雄の家にはテレビはないのだ。
イライライライライライラ。
テーブルを人差し指で叩く。頬杖をついて、不機嫌な顔でタバコを睨む。
「吸いたいなら吸えば?」
いつの間に入って来たのか、臨也が呆れて立っていた。「お土産」と、プリンが入ったコンビニ袋を差し出す。
「吸わねえ」
プリンを受け取りながら、静雄は首を振る。タバコを吸えない苛々と、勝手に入って来た男に対する苛々と、プリンを貰った嬉しさで複雑な表情をしていた。
「禁煙中?」
コートを脱ぎながら臨也が問う。
「違う」
早速プリンの蓋を開けながら、静雄は首を振った。
「じゃあ何で吸わないの?」
体の具合でも悪いのか。そんな疑問が浮かぶが、静雄に限ってそれはないだろう。
静雄はそれに答えずに黙り込んだ。プラスチックのスプーンでプリンを口に運ぶ。甘くまろやかな味は静雄が好きな種類のプリンだ。
「…あー…」
臨也はふと思いつき、口端を吊り上げた。静雄の隣に座り、ぽん、と肩を叩く。
「ひょっとして俺が来るから吸わなかったの?」
そう言えば静雄は最近、自分の目の前ではタバコを吸わない。臨也はそれに気付いていたが、問い質したりはしなかった。
「気を使わなくていいのに」
「吸わねえ奴には臭いだろうしな」
静雄は無愛想にそう言って、プリンを食べるのに集中する。その耳はほんのり赤くなっていて、静雄の心情を表していた。
「シズちゃんって、」
臨也はそのまま体を寄せ、静雄の顔を覗き込んだ。
「結構俺のこと好きなんだねえ」
喫煙に気を使うくらいには。
「違う!死ね!」
臨也の言葉に静雄は即座に否定した。しかしその顔は真っ赤で、言葉にも迫力がない。
ますます不機嫌な顔になる静雄とは対照的に、臨也はご機嫌だった。

「煙草のフレーバーのキスは嫌いじゃないけどね」
「だから違え!」



2011/03/03 22:32
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