息継ぎが間に合わない





満月だ。
静雄は空を見上げ、目を眇めた。完璧には夜ではない、紺色の空。ずっと遠くの方は、少しだけまだ青い空だ。
日がすっかり長くなった。もうすぐ春なのだな、と静雄は考えながら、アパートの階段を上がった。カンカンカン…軽い足音が響く。
自身の部屋の前に立つと、ポケットから鍵を取り出した。こんな施錠などちっとも防犯にならないのではないか──…そんな心許ない簡単な鍵を開け、静雄は部屋の中に入る。

「動くな。…なんてね?」

扉が閉まると同時に、カチャ、と何かの金属の音がした。同時に後頭部に、冷たくて硬い物が触れる。ひやり、と静雄の背中に冷や汗が流れた。
「…何の真似だよ」
静雄は前を向いたまま、後ろの男に声を掛ける。男は銃口を静雄に押し付けて、声を上げて笑う。
「さすがのシズちゃんも、こんな至近距離で頭を撃たれたら死ぬよねえ?」
酷く楽しそうな声だ。この男は今、とても機嫌が良いらしい。そしてこの男が機嫌が良い時は、静雄にとっては最悪である。
「死にたくない、って命乞いしてみなよ」
銃口がゆっくりと下に降り、うなじの辺りで動きを止める。
「殺せよ」
静雄は薄暗い自身の部屋を眺めながら、静かにそう言った。発した声は酷く素っ気ない。
「殺したいんだろ?さっさと殺せ」
「…つまらない反応だなあ」
臨也は不機嫌にそう言い、銃口を引っ込めた。
「もっと焦って貰わなきゃ、殺す楽しみもないじゃないか」
床に銃が投げ出され、畳の上を滑ってゆく。それはどうやら、ただのおもちゃのようだった。
「手前の冗談に付き合ってられるか」
静雄は吐き捨てるよう言い、臨也の方を振り返る。赤い目と目が合うと同時に、噛み付くように口づけられた。
「…っ、」
強い力で押し倒され、二人は床に転がる。弾みで頭を打ったが、痛がる余裕もない。
舌を捩込まれ、絡ませられた。口をどこか切ったのか、口腔は血の味がする。柔らかな粘膜を舌先でなぞり、上顎を舐められて、静雄は息が苦しい。飲みきれなかった唾液は、顎を伝って衣服に染みを作る。
「…セックスで君が死ねばいいのに」
臨也は口端を吊り上げ、静雄のシャツの釦を外してゆく。冷たい指先が鎖骨をなぞるのに、静雄は体を震わせた。
「手前が腹上死すればいい」
「それは本望だね」
静雄の言葉に、臨也は笑い声を上げる。それを忌ま忌ましく思いながら、静雄は臨也の首に腕を回した。



2011/02/27 08:35
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