10センチ





「好きだよ」
両手で頬を包み込み、臨也が顔を見上げて来る。その吐息は熱く、静雄の頬を優しく掠めた。
静雄はそれに頬を赤らめ、困ったように視線をさ迷わせた。切なくて苦しくて、今の自分の表情を、臨也に見られたくない。
こんな時、身長差は不便だ。自分がどんなに顔を伏せていても、臨也からは丸見えになってしまう。自分の高い身長が嫌だなんて、今初めて思ったかも知れない。
「シズちゃん」
名を呼ばれ、柔らかなキスを受けながら、静雄は薄目を開けて臨也を見た。臨也の黒く長い睫毛は、綺麗に伏せられている。
残念だ、と思う。
赤みがかった臨也の目は、とてもとても綺麗なのに。
静雄の目線から見える臨也は、いつも耳裏やうなじが見えていた。真っ黒な髪の襟足や、つむじなんかも。臨也本人が見えない箇所が見れるのは、決して悪くはないと思う。
身長差10センチ。
その差は良くも悪くもあるのだと思い、静雄は瞼を完全に閉じた。何も見えなければ身長差は関係ない。感じるのは臨也の唇と、熱だけだ。
口づけられ、舌を絡まされながら、静雄は臨也の背中に怖ず怖ずと腕を回す。
今のところ、良い面の方が多いのだろうか。自分にしか見えない臨也の表情や仕草を、静雄はこっそり脳裏に焼き付けていた。きっとそれらを知っているのは自分だけ。その事実にぶるりと体が歓喜で震え、背中に回す手に思わず力が入る。
「シズちゃん好きだよ。大好き」
臨也は今日も愛の言葉を口にする。10センチ下の位置から、静雄を見上げて。
上目遣いに見られるのも悪くない。下から口づけられるのも。後頭部に手を添えられ、引き寄せられるのも、求められている感じがして好きだ。
「シズちゃん」
臨也が懇願するみたいに自分の名を呼ぶ。静雄はそれに頷き、答えの替わりに鼻先に口づけた。

ああ、やはり10センチ差も悪くない。





2011/02/25 08:57
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -