死に至る病





とある麗らかな日。
小学生の頃からの友人がマンションに訪ねてきた。
金の髪にサングラス、バーテン服に煙草。池袋に住んでいる者なら誰でも知っている、『池袋最強』と言う通り名の男。
静雄は開口一番、新羅の顔を見て言ったのだ。

「俺、死ぬかも知れねえ」
「はああああ?」

危うく椅子から崩れ落ちるところだった。
新羅は体勢を立て直し、まじまじと静雄を見る。
「誰かに命でも狙われているのかい?」
拳銃で撃たれても死なない癖に。とは心の中で呟く。
「ちげーよ。病気じゃないかと思ってよ」
静雄は不機嫌にそう言い、すぐに真顔になった。
「こう…胸が痛いし、苦しいし」
「はあ…」
「急に鼓動が早くなったり、顔が熱くなったり…泣きたくなったり」
そう話す静雄の声が、辛そうに歪む。新羅はずり落ちた眼鏡をかけ直し、そんな静雄を珍獣でも見る目付きで見た。
「えっと…それは普段から?」
「いや…その、池袋で臨也を見付けた時とか」
「……」
新羅は黙り込む。
「そうか!臨也の奴がなんか企んでんのかも知んねえな。薬でも盛られたか」
静雄は真剣である。その白い肌は怒りか、はたまた違う何かでとにかく赤い。
いくら顔は割とイケメンだからと言って、新羅は男の頬を染める姿は気持ち悪かった。茶化すこともからかうことも出来ず、何て声を掛ければ良いのか悩む。
「あ、あれかなあ…それは、その…」
「なんだよ?」
静雄の眉間に皺が寄る。これは変な事を言ったら殺されるかも知れない──…新羅はごくりと唾を飲んだ。
「きっとそれは臨也のせいだと思うから、彼に問い詰めるといいかもね!君を見ると胸が苦しくてドキドキして切なくて死にそうだ…って言えばいいよ!」
まるで恋してるみたいな症状だけどね!とは心の中で。
「…やっぱり臨也のせいか」
ギリギリ…と静雄が歯軋りをする。その目は怒りで燃えていた。
「善は急げだな。ちょっくら新宿行ってくるわ」
静雄はそう言うとさっさと部屋を出て行く。どこが『善』なの?と新羅は思ったが、恐ろしいので口には出さない。
やがて扉が閉まり、マンションを出て行ったであろう静雄に、新羅は溜息を吐いた。
「臨也は大喜びなんじゃないかなあ…」
でもそれを自覚した静雄は、照れて暴れ出すかも知れない。
「ま、両思いの代償ってことで」
新羅は肩を竦め、新宿にいる友人に笑った。



2011/02/21 08:49
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