席替え 臨也ver





臨也の席は、廊下側の一番後ろの席だった。別に視力は悪くはないし、扉の傍でたまに隙間から入り込む風だって気にしちゃいなかったので、席に不満は持ってなかった。
そんな臨也の席からは大分離れた窓際の真ん中に、金髪の背の高い青年が座っている。臨也はつまらない授業を聴きながら、いつも後ろから静雄を見ていた。静雄はうとうとと居眠りをしたり、真面目にノートを取ったりしていた。
臨也はそんな静雄を眺めているのが好きだった。少し遠いのが難点だったが、あいうえお順のこの席はどうせ入学当初だけだろう。
そんな風に思って一ヶ月半、とうとう席替えのチャンスはやって来た。


「明日さあ、席替えがあるんだって」
独り言のように呟き、臨也は窓から見えるグラウンドに目を細めた。部活動に励む生徒たちが、掛け声を上げながら走っている。空はうっすらとオレンジ色で、こんな時間まで追いかけっこをしていた自分が少し滑稽だった。
静雄はそれに答えない。不機嫌な静雄の様子に、臨也は小さく笑う。静雄は寡黙な方で、あまりお喋りを好まない。特に今は喧嘩の後で、機嫌が良くないのだろう。
「席、近いといいねえ」
臨也のこの言葉に、静雄は初めて顔を上げる。その目は咎めるみたいに臨也を見ていた。疑問、不信、不安、静雄の様々な感情を、臨也は的確に受け止める。
優しく頬に触れてやると、静雄はぴくりと体を震わせた。人との接触に慣れていないのだろう。臨也は口端を吊り上げる。
「きっと楽しいよ」
臨也はそう言って、静雄の薄い唇に口づけを落とした。触れるだけのそれは、温もりも感じることが出来ぬままに直ぐに離れる。
静雄はやっぱりそれには答えずに、舌打ちをして顔を伏せた。その顔が僅かに赤いのは、きっと気のせいではないだろう。





臨也は神は信じていない。だがさすがにこの出来すぎた席に、少しばかり神を信じたくはなった。
どうせ席替えをするなら、静雄の近くが良いなと思っていたのは事実だ。高確率で殆ど授業にはならなくなるだろうけれど、構わないと思っていた。
「新羅が邪魔だけどねえ」
本音だ。
「いやあ、僕も席を交換してあげたいんだけどさ!」
クラスの皆が駄目だって言うしね!と新羅は笑う。この飄々とした友人は、きっと自分と静雄の関係に気付いているのだろう。この男は賢い。
「近くに来んな。つうかもっと離れろ。廊下に机を出せ」
「うわ、シズちゃん酷いなあ」
そんな二人の間でくすくすと新羅が笑う。

不機嫌な顔の静雄と、楽しそうな新羅を見て、まあこの席も悪くないなと臨也は思った。




2011/02/19 10:56
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