席替え 静雄ver






「明日さあ、席替えがあるんだって」
誰もいない教室で、臨也が窓の外を見ながら言った。
静雄はそれに答えない。疲れていて、答えることも億劫だったからだ。机に頬杖をつき、さっきからずっと仏頂面だった。それもその筈、先程まで目の前の男と喧嘩していたのだ。喧嘩相手に愛想良くなど出来ないだろう。
「席、近いといいねえ」
そんな静雄を見て、臨也は目を細めて笑う。開けっ放しの窓から風が入り込み、二人の髪の毛を揺らした。



残り物には福がある。
そういう言葉があるだろう?結局はただの運だろうけど、静雄はその時真剣にそう信じていた。
クラスメイト達がくじが入った箱に詰め寄る中、静雄はちらりと臨也の方を盗み見る。臨也は新羅と何かを話していて、まだくじを引く気はなさそうだった。
臨也の近くの席。
…なんてことになったら、きっと授業どころではないのだろう。一日中苛々しっぱなしで、心が休まる暇もなさそうだ。
静雄は臨也から目を逸らすと窓を見た。窓の外に広がる空は、どこまでも青い。あと一ヶ月もしないうちに夏が来る。夏は嫌いではないけれど、暑いのは苦手だった。多分この席が決まったら、夏休みまでその座席なんだろう。
「シズちゃん、早く引きなよ」
嫌な愛称で呼ばれ、静雄は顔を向ける。いつの間にか臨也と新羅はくじを引いたらしい。赤い目と目が合って、静雄は眉根を寄せた。
「変な呼び方すんなっつってんだろーが」
この男は自分が嫌がるのを分かっていて、わざとこんな呼び方をする。静雄はそれにウンザリとしながらも立ち上がり、教壇の方へと歩み寄った。
「俺、シズちゃんと近くの席がいいなあ」
くじを引こうとした時、臨也がこんなことを言う。思わず顔を見れば、臨也は楽しげに笑っていた。
「…俺は絶対に嫌だ」
一瞬の間のあと、静雄は不機嫌に答える。臨也が本気でそう思っていることを、静雄は知っていた。
…うぜえ。
何だか緊張してしまう。
内心舌打ちをしながら、静雄は乱暴にくじを引いた。
結果、静雄は臨也とひとつ分だけ席が離れた。離れたと言っても同じ列だし、横を向けば目に入ってしまう。いやはや、運命とは恐ろしい。それも間には新羅がいるし。

「お前、なんか細工したろ」
放課後の誰もいない教室で、静雄は胡散臭げに問う。臨也なら何か仕掛けるぐらいやりそうだ。くじに細工でもしたんじゃないか、と静雄は疑ってしまう。
「何もしてないよ。本当に偶然」
臨也は昨日と同じく、窓を開けて外を見ていた。入り込む風が髪を揺らし、臨也のコロンが微かに匂う。
「席が近くて嬉しい?」
低く笑いながら、臨也が静雄に視線を移す。
「別に」
静雄はそれに不機嫌に答え、臨也の赤い目から目を逸らした。
隣の隣なんかより、前後の方が良かったと思う。臨也が前の席ならば、後ろから見ていても怪しまれない。静雄は臨也の姿を見るのが好きだった。絶対に口には出さないけれど。
臨也はまた笑ったようだ。漏れる笑い声と共に顎を掴まれ、顔を前に向かされる。
近づいて来る吐息に、静雄はゆっくりと目を閉じた。



2011/02/18 08:54
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