餌付け





「ムカつくな」
苛々とした静雄なんて日常茶飯事である。
新羅は取り敢えず機嫌を取る為に、テーブルの上にケーキを差し出した。生クリームがたっぷりの、苺が乗ったケーキ。
「臨也がムカつくなんていつものことだろう?」
コーヒーにミルクと砂糖をみっつ。甘い温かな飲み物も用意し、新羅はテーブルにそれを置く。
「甘い物でも食べたら、静雄のそのムカつきも治るかもね?」
「治るかよ」
吐き捨てるように言い、静雄はフォークを手にする。グサッと乱暴に突き刺すその姿は、決して行儀が良いとは言えない。
「臨也のことを考えると不味い」
「まあ食事の時に思い出したい相手ではないよね」
サラリと酷いことを言いながら、新羅は静雄に頷いた。
静雄はそれでも幾分不機嫌は回復したようで、パクパクとケーキを食べ始める。熱いカフェオレは少し冷めないと飲めないのだろう。ケーキを優先しているようだ。
「美味しい?」
新羅が問うと、
「美味い」
と短い返事が返って来る。
新羅はそれに頷くと黙り込み、自分はコーヒーだけを飲んでいた。ケーキは嫌いではないが、今静雄が食しているケーキは自分には食べられない。
「これ、本当に美味いな」
ケーキを食べて、静雄の機嫌はどんどん上昇してゆく。
生クリームのまろやかさも、ふわふわのスポンジも。全てが静雄の好みの味で、非の打ち所がない。
「それは良かった」
新羅はにっこりと笑って、またコーヒーに口をつける。後でこのケーキを持って来た男に報告しなくては。
これは静雄の好みを完璧に知り尽くした男が買って来たのだ。静雄が美味しいと思うのは当然である。
喧嘩をし、機嫌が悪くなって、旧友の家に愚痴りに来る静雄の為に、あの男はわざわざケーキを新羅の家まで持って来た。全く健気と言うか何なのか。だったら最初から喧嘩をしなきゃいいのに。
…これを静雄に教えたら、きっと怒るんだろうなあ。
新羅は溜息を吐く。不味い、と言い出すのは目に見えている。ケーキの味が変わるわけではないと言うのに。
「まだあるよ。食べる?」
笑顔を浮かべながら新羅が問うと、静雄は目を輝かせた。
「食う」
まるで餌付けしている気分だ。新羅は少しあの男に同情した。


2011/02/12 08:13
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