アイスかケーキ





アイスが食べたいと言うと、臨也は信じられないものでも見るかのように俺を見た。
「はあ?この寒いのに何言ってんの?」
1月のくそ寒い日。吹く風は冷たいし、吐く息は真っ白だ。臨也は首に巻いたマフラーをこれ見よがしに、鼻先まで上げた。臨也は寒いのが苦手なのだ。
「お前は食わなきゃいいだけだろ」
「見てるだけで寒い」
「だったら見るなよ」
大体なんで俺はこの大嫌いな男と一緒に帰ってるんだろう。委員会だとか言って居残ってる新羅を置いて、そそくさと学校を後にしたまでは良かった。すると校門にこの男が立っていて、一緒に帰ろうと言い出したのだ。
「シズちゃん寒くないの?」
「寒い」
俺だってこの寒空の下でアイスは食いたくはない。食うならもちろん室内がいいに決まってる。でも俺はアイスが好きなのだ。チョコやバニラやストロベリーのアイスを山のように食べたい。
「子供かよ」
臨也は呆れたように言う。本当に腹が立つ野郎だ。いつか絶対殺す。
「お前一人で帰れよ」
これ以上一緒にいるのはお互いの精神面で良くないだろう。
「やだよ」
…人が親切に言ってやったのになんなんだこいつ。
「じゃあアイス奢ってあげるよ。しょうがないなあ」
臨也ははあ、と溜息を吐いた。
なんで俺がこいつに奢られなきゃいけないんだろう。意味が分かんねえ。
「だってシズちゃん誕生日でしょ」
当たり前だろう、みたいな顔で言われて、俺はポカンとした。
は?誕生日?今日何日だっけ…ああ、確かに28日。俺の誕生日だった。
「シズちゃんって本当に馬鹿だね」
呆れたような臨也の声。
「なんで誕生日だからってお前が奢るんだよ」
あー、やばい。顔が熱い。耳まで熱いぞ。ひょっとしたら俺は今顔が赤いかも知れない。
俺は臨也が気付かないことを祈りながら顔を伏せた。
「本当はケーキとか奢ろうと思ってたけど、アイスがいいんだろう?」
臨也の赤い目が細められ、嫌な笑い声が響く。こいつがこんな笑い方をしている時はろくでもないのだ。きっと、たぶん、確実に、気付いているんだろう。あー、うぜえ。
「…そんな言うなら奢られてやらないこともない」
ま、たまにはいいだろ。
「えらそうだなあ…ケーキとアイスどっちがいいの?」
呆れながらも臨也は笑ってる。悪意がない臨也の笑顔は珍しい。
俺は暫し黙り込み、真剣に悩んだ。アイスもケーキもどっちも好きだ。どちらかを選べと言われると困ってしまう。
本気で悩む俺に、
「じゃあ両方買ってあげるから、俺んちで食べない?」
臨也はにっこりと笑ってそう提案した。
俺は散々また悩み、結局臨也の家に行くことにしたんだが──…後からそれを死ぬほど後悔した。
それはもう思い出したくもないし、その話は誰にもしたくない。




2011/01/28 21:04
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