U.結局お前の好きな行為というのは
私を痛めつけることだろうよ





大袈裟に包帯を巻かれ、静雄はそれに眉根を寄せた。
しかし闇医者はこれが治療と言うものだと言うし、親友もえらく心配して来る。だから静雄は文句も何も言えず、包帯で腕をぐるぐる巻きにされるのを黙って見ていた。どうせ包帯は衣服で隠れるし構わないだろう。
臨也に会った事を言うと、『そいつらが襲ったのは臨也のせいか』と親友が自分と同じことを言った。やはりあの男と自分の関係を知っている人間なら、皆そう思うのだろう。親友は残念ながら人間ではないけれど。
どうやら違うらしい、と静雄が言うと、今度は闇医者の方が笑って言った。
「じゃあ静雄を襲ったその人達には手荒い天罰が下るだろうね」
意味が分からないので静雄が首を傾げると、「分からないままでいいよ」とまた笑われる。腹が立つので静雄はそれ以上聞かなかった。
「でさあ、」
治療を終えた旧友の闇医者は、真っ黒なそれを取り出して静雄を見遣る。その顔は相も変わらず笑っていた。
「これどうするの?」
差し出されたのは、血を吸ったハンカチだった。



取り敢えず洗濯をした。ワイシャツのついでにアイロンもかけた。綺麗に畳み、小さな袋に入れ、今それは静雄の部屋のテーブルの上にある。
さてこれをどうするべきか。
静雄は思い悩む。
天敵の所有物が自分の家にあるのが気に入らない。かと言って会いたくもない。わざわざ宅配便も馬鹿馬鹿しい。
そう悩んで早三日。まだそれは静雄の家にいた。
持ち歩いていれば返す機会もあるかも知れない。そう考えたが、天敵の物を持ち歩くのも嫌だった。こんな下らないことを悩みに悩んで、結局静雄は今新宿に居る。
マンションのインターホンを押し、静雄は軽く息を吐いた。怠い。そして面倒臭い。さっさと返して帰りたい。
確か臨也には助手がいた筈だ。その女に渡せばそれで用事は直ぐに終わる。臨也はきっと自分が訪ねて来ても中に入れたりしないだろうし、最悪居留守を使われたら郵便受けにでも突っ込んで置こう。
静雄はそう考え、うんざりしたようにまた溜息を吐いた。
「あれえ、シズちゃん」
しかし間が悪いのか何なのか、本人がちょうど帰宅したところだったらしい。全く、頭が痛い。
「何か用かな?」
臨也は真っ黒なコートに身を包み、マンションの入口に立っていた。口許にはいつもの笑みを浮かべてはいるが、警戒しているのが分かる。
「あー…、」
静雄は戸惑い、天井を仰いだ。いきなり会ってしまったせいで、心の準備が出来ていない。言うべき言葉が見つからなくて、黙り込んでしまう。
「?」
眉を顰め、臨也が訝しげに首を傾げる。いつもと違う静雄の様子に困惑しているのかも知れない。
静雄は言葉を掛けるのは諦め、臨也にいきなりその袋を投げ付けた。
「返す」
それを片手で受け止めると、臨也は目を見開く。袋を開けなくても、何を渡されたのか分かったのだろう。
「じゃあな」
そう言い残し、静雄はさっさと出て行こうとする。なんだか居心地が悪かったし、これ以上ここに居たくはなかった。
踵を返した静雄の背中に、
「シズちゃん」
と、臨也が声を掛ける。
「せっかく来たんだしさ、寄って行かない?」
この言葉に、静雄の足が止まった。





2011/01/28 22:37
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