T.洗練された暴力はどこかエロティックですらあった





名前も知らない男を殴り飛ばし、静雄はそれを冷ややかに見下ろした。
男は口から血を吐いて倒れ込む。周りには男の他にたくさんの人間が倒れていた。どれも柄が悪く、まともな人間ではないと一目で分かる。
静雄の左腕にはナイフが突き刺さり、血がどくどくと流れていた。油断したとは言え、ナイフをそのまま受けたのは自分の過失だ。
静雄は苛々とし、倒れた男の胸倉を掴んだ。後もう数発殴らねば気が済まない。今日は朝から気分が良かったと言うのに、こいつらの襲撃のせいでそれも吹き飛んでしまった。

「シズちゃん」

嫌な愛称を呼ばれ、殴ろうとしていた手を静雄は止める。
振り返れば、ネオンの逆光で真っ黒な男が立っていた。
「それ以上殴ったら死ぬよ」
言葉は物騒だが、口調は揶揄を含んでいる。
静雄は小さく舌打ちをすると、掴んでいた男から手を離した。
忌ま忌ましげに腕に刺さったナイフを引き抜く。途端に腕から血が噴き出したが構わなかった。路地裏のアスファルトに、血まみれのナイフが転がる。
「出血死するよ」
「黙れ」
笑い声を上げて臨也が言うのに、静雄はただ睨んだだけだった。目の前に天敵がいると言うのに、疲弊して戦意が喪失しているらしい。
「どうせお前の仕業だろ」
それでも燃えるような目で睨んで来る。
臨也はその眼差しを受け止め、両手を上げて肩を竦めて見せた。
「残念ながら俺じゃないよ。君は俺なんかが裏で糸を引かなくても引く手数多だろう?人気者だからね」
馬鹿にしたような言い方だ。静雄はそれにうんざりとして顔を逸らした。これ以上この男と話していると精神がやられる。
臨也は地面に転がった男達を足で蹴ると、傍らに屈み込んだ。一体何をしているのだろう。静雄にはどうでもいいことだったが。
「早く新羅の所に行きなよ」
臨也は俯いたまま、そう言った。屈んでいるせいで声はくぐもっていて、聞き取りづらい。
「あげる」
傷口を結んだら?と、臨也が差し出したのは黒いハンカチだった。こいつはハンカチさえも黒いのか、と静雄は内心呆れる。
「いらねえ。もう塞がる」
言葉の通り、傷口は塞がり始めていた。その証拠に腕から落ちる血の勢いが遅い。
「相変わらず化け物だ」
臨也は呆れたように呟くと、ハンカチを投げて寄越した。
「なら血を拭いて」
静雄はそれを渋々と受け取り、血まみれの手を乱暴に拭う。黒いハンカチは血を吸って更に色濃くなった。
「一応新羅に診て貰った方がいい。腱が切れていたらまずいし」
「……」
自分を心配するような臨也の言葉に、静雄は戸惑って黙り込む。二人の間に沈黙が落ちた。
「シズちゃんが回復しないうちに帰るとするよ」
臨也は唇を歪めて立ち上がる。そして静雄が声を掛ける前に、さっさとその場から居なくなってしまった。





2011/01/28 17:55
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