散歩(静誕)





散歩に行こう。

なんてサイケが言い出したので、デリックは仕方なくついて行くことにする。
本当はこの容姿で外に出たくはなかった。誰かに見られたら、オリジナルの臨也と静雄に迷惑がかかる。

「たまには息抜きして来い」
「別に構わないよ」

前者は優しさから、後者は楽しげに。
オリジナル二人の許可を得て、サイケとデリックは新宿のマンションを出る。
外はまるで絵の具で塗り潰したような青空が広がり、木々の隙間からは陽光が降り注ぐ。踏み締める地面がアスファルトではなく芝生だったなら、もっと気分は良かったことだろう。
サイケはご機嫌に鼻歌なんかを歌い、デリックの半歩前を歩いていた。真っ白な衣服は太陽の光を浴びて、殊更白く眩しい。漂白されたみたいなその白さに、デリックは目を細める。
街を擦れ違う人々が、好奇の目で二人を見た。全身が真っ白な衣服、ピンクのヘッドフォン。一人だけでも奇妙な格好なのに、お揃いのように似た格好をしている。注目を集めるのは当然と言えた。
早く帰りたい。
注目されることをデリックは好まない。静雄も多分そうなのだろうけど、あちらの方はそれに慣れてしまっている。
サイケはと言えば、そんな視線は全く気にしていないようだ。寧ろその顔はとても楽しそうに見える。多分オリジナルの臨也もこうなのだろう。肝が据わっているのか、無頓着なだけか。デリックには分からないけど。
「何でそんなに不機嫌な顔をしてるの」
前を歩くサイケが振り返ると、ピンクのコードがくるんと舞った。
「そうか?気のせいだろ」
まさか帰りたいとは言えず、デリックは素っ気なく答える。楽しげなサイケに水を差すようなことは出来ない。
「静雄さんみたい。ムスッとしてさ」
本人が聞いたら怒り出しそう事をサラリと言い、サイケは口端を吊り上げた。
その厭味っぽいお前の顔も臨也さんみたいだぞ、と言いたいのを、デリックは飲み込む。
「せっかく綺麗なのに。青空も木々も」
サイケは伸びをするみたいに両腕を上げた。まるで人間のように。
「こんな都会でも空は青い」
デリックは釣られて空を見上げた。綺麗な澄んだ空。この空はきっと新宿じゃなければ、もっともっと綺麗なのだろう。
繁華街は行かないようにして、なるべく近所だけを歩いた。時折風が吹き、二人の髪を揺らす。街路樹が揺れてざわめくのが、耳に心地好い。
急にサイケが振り返り、デリックの手を掴んだ。デリックの目が驚愕で見開かれる。
「ね、手を繋いで行こう」
「おい…」
「手を繋ぐくらいはいいだろう?」
掴んだデリックの手を引いて、サイケは歩き出す。
緩やかに吹く優しい風、木々のざわめき、暖かな陽射し。こんな自然をいつでも体感出来る人間が羨ましい。
デリックは目を細め、サイケの手を握り返した。
「ねえ、ケーキ買って行こう」
「ケーキ?」
「今日、静雄さんの誕生日なんだって。実は臨也さんからお金貰ってあるんだ」
『買い物』が出来るのが嬉しいのか、サイケは楽しげに笑う。今日が静雄の誕生日なのは、デリックも知っていた。
なるほど、だから臨也は外出許可を出したのかも知れない。デリックは納得した。静雄に何か買って喜ばせてあげて欲しい、と言うことなのだろう。
「花も買おうか」
「いいね。お金足りるかな?」
サイケが笑い、デリックも笑う。
手を繋いだまま、二人はゆっくりと坂を歩いた。


(2011/01/28/13:51)
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