NO





漆黒の髪の毛、白い陶器のような肌。瞳だけが、血のように朱い。
ナイフは静雄の喉に突き付けられ、先端が僅かに血を滲ませる。ほんの数ミリ抉られただけでも、人間は血が出るのだ。
「返事は?」
臨也の声は低く室内に響く。
エアコンのついていない部屋は冷たく、寒い。フローリングの床はひんやりとしていたし、散々やり合ったせいで物が四方に散らかっていた。開け放しの窓からは冷気が入り込み、白のカーテンがはためいている。
厭な笑い方だ。
静雄は床に押し倒されたまま、臨也の顔を見上げていた。この男はいつも嗤っている。真面目な話をしている時でさえ、その顔には笑みを絶やさない。静雄はそれが大嫌いだった。昔から。
「返事?」
静雄は怒りと殺意でギラギラした目をしていた。口許を無理矢理吊り上げて、目の前の男を睨んでやる。
「返事が必要なのか」
「必要だね」
臨也はくっくっと笑い声を漏らし、突き刺すナイフに力を込めた。つー、と静雄の首筋に赤い血が流れ落ちる。
茶番劇だ。
静雄は思う。
多分これ以上は、臨也のナイフは自分には刺さらない。それは即ち、臨也の敗北を意味する。
こんな風に押し倒されていても、自分が力を出せば直ぐに体勢は逆転するだろう。それでも脅す臨也と、脅されて動けない自分。これは茶番だ、と静雄はまた思った。
「何度聞かれても、返事はNOだ」
「どうして?」
臨也は笑ったまま、首を僅かに傾ける。何が楽しくてそんなに笑うのだろう。静雄には到底理解出来ない。
「どうして、なんて聞くのか」
「理由が知りたい」
臨也はナイフを引くと、静雄の上から体を退けた。傷付けられた静雄の首筋は、既に塞がり始めている。
「理由なんて、そんなもの」
馬鹿馬鹿しい。
毎回毎回、何故こんな事を聞いて来るのだろうか。
「お前が『折原臨也』だからだろ」
それ以外に理由は必要ない。
静雄ははだけられたワイシャツのボタンを留めてゆく。真っ白なそれは、血のせいで赤く模様がついているようだ。
「残念だ」
臨也はナイフに付着した静雄の血を、同じくらい赤い舌で舐めた。ちっとも残念そうじゃない様子で。
「どうせまた、お前は同じ質問を繰り返すんだろ」
抱かれる度に、臨也はいつも同じ事を問うのだ。
「シズちゃんがYESと言うまでね」
「一生ねえわ」
笑う臨也に、静雄も思わず声を出して笑った。
愚問も答えも茶番だからだ。


俺の物になってよ。



(2011/01/25/23:39)
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