『所有権』



平和島くんって格好良くない?
細くて背が高くてモデルみたいだよね!
それにメチャやさしーし!
頭もいいんだよねぇ


きゃあきゃあと騒ぐ女生徒たちの声を聞きながら、臨也は飲んでいたカフェオレのパックを握り潰した。
「ちょっ、中身飛んだ飛んだっ」
汚いなぁ!と新羅は大袈裟に臨也から離れていく。
「女って逞しいよね。顔さえ良ければ他のマイナスは目を瞑る、みたいな」
口端をいつものように吊り上げて、臨也はパックを乱暴にごみ箱に捨てた。
「静雄のマイナスってあの暴力?まあ確かに静雄はあれさえなきゃもっとモテてるだろうね。顔は弟と同じくイケメン、性格は真面目で優しい、高身長、成績は学年首位」
「今学期の首位は俺だよ、万年三位さん」
「…何だか不機嫌だね」
「そうかな。寧ろ可笑しいよ。あのシズちゃんが女の子にモテるなんて滑稽さ」
臨也はくくくく、と喉を鳴らす。
酷く綺麗な顔をしたこの男は天敵である静雄の話しになると偉く嬉しそうだ。
「でも静雄は当分恋人は作らなそうだよ」
ズズズ…と同じカフェオレバックを吸いながら、新羅は金髪の友人を思い浮かべた。
「昨日も告白されてたんだけどさ。興味ないみたいで断ってたし」
「…へえ…」
「それとも実は好きな子がいるとかかな」
ズッ、と最後まで啜ると新羅は空のパックをごみ箱に放り込んだ。見事に命中。
「臨也は静雄からそういう話聞いたことある?」
顔を上げて友人の顔を見、新羅は硬直する。
「好きな子とかいるなら応援しないとね」
臨也は満面の笑みで。
「臨也…。目、笑ってないんだけど」
新羅はぶるっと身を震わせた。



翌朝。
普段は遅刻か遅刻ぎりぎりの臨也が珍しく普通に登校した。
校門前は登校する生徒でごった返している。
暫く校門で待つと、目立つ金髪が新羅と共にやって来た。
「シズちゃん、おはよう」
「げ、ノミ虫」
臨也を見付けてあからさまに嫌がる静雄に、臨也は嬉しそうに笑う。
「シズちゃんはおはようは返さないの?挨拶はちゃんとしなさいってお母さんに言われてない?」
「手前に言う挨拶なんてねぇよ」
「臨也、僕には挨拶なかったようだけど?」
「新羅はいいんだよ」
「ひどっ!」
朝っぱらから校門で騒ぐ、校内関わるなランキング一位〜三位に、他の生徒たちは避けて歩く。
「朝から手前の顔見て気持ち悪ぃ…」
「じゃあこれで機嫌直して?」
臨也は静雄の胸倉を掴むと自分の方へ引き寄せた。
「?」
静雄が驚きで目を見開くと、そのまま唇が重なる。
瞬間、周りの学校へ向かう生徒たちの動きが止まった。
新羅は、うわっと頭を抱える。
静雄は何が起こっているのか分からずに固まっていて、抵抗を忘れているようだ。
臨也は左手を静雄の髪の毛に回し、口づけを更に深くした。
「…っ」
静雄は漸く何をされている気付くが、力が入らない。
息が苦しくて少し唇を開けば、舌が入り込んできた。
「ん…っ」
静雄から甘ったるい声が洩れる。
臨也は思う存分静雄の味を堪能すると、やっと唇を離した。
「…はっ」
赤く上気した頬に、潤んだ目。唇は濡れて扇情的だ。
「シズちゃんってば可愛いーっ」
臨也がニヤニヤ言えば、
「いーざーやあぁあぁあぁぁぁぁっ」
真っ赤な顔の静雄の怒声が、朝の校門に響いた。




ねえねえ、朝に校門で平和島くんと折原くんがキスしてたらしいよ!
見た見た!平和島くん、顔真っ赤にしてスッゴく可愛かったぁ…
どっちが攻めかなぁ?


やはり女子は逞しいという話。
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