出会いませんように。





次は出会いませんように。


もしもこの世から居なくなる時に何かを想うなら、自分はそう願うだろうなと思った。
当たったら命がないであろう自動販売機を避け、鼻先を掠めて行く標識を躱し、臨也は全速力で路地裏へと逃げ込む。はあはあと息が荒い。汗がぽたりと額から落ちた。
…今日はまた一段としつこいな。
手の甲で汗を乱暴に拭うと、臨也は建物の陰に隠れて移動してゆく。
相手は自分を見付ける臭覚が恐ろしい。一箇所に留まるのは危険だった。
全く忌ま忌ましい…。臨也は大きく舌打ちをする。
池袋に来る度に毎回攻撃をされては堪らない。早く死んでくれないだろうか。
ふと足音がし、臨也はさっと物陰に隠れた。
注意をして顔を向けて見れば、黒と白のコントラストが見えた。金髪が風に吹かれ、緩やかに揺れる。
見た目は綺麗なのに。
何故あんなに暴力的なのだろう。短気なのもいただけない。臨也には到底理解が出来ないし、一生理解する必要性もない。
追い掛けるのを諦めたのだろうか。静雄はポケットから煙草を取り出し、一本口に銜えた。片手で風を遮り、Zippoで火を付ける。指で煙草を挟み、薄い唇から紫煙をゆっくりと吐き出した。白い煙が鬱陶しいのか、静雄は目を僅かに細める。
その一連の動作は、まるで映画のワンシーンのようだった。臨也は見取れていた自分に気付き、内心舌打ちをする。
ああ、不愉快だ。不愉快で堪らない。
臨也は高校生の頃からこんな自分を自覚していた。惹かれる自分と、反発している自分。外見だけではなく、内面を知れば知るほど惹かてゆく。そしてそれを嫌悪する自分自身。吐き気がしそうなくらい、この矛盾な感情は臨也を苦しめる。
臨也は再度舌打ちをすると、隠れていた物陰から姿を現した。
直ぐにそれに気付いた静雄が、吸っていた煙草を投げ捨てる。
「臨也、手前…」
「シズちゃん」
臨也は口端を吊り上げて、ゆっくりと静雄へ近付いた。逃げる様子もない臨也に、静雄は面食らう。
「なんだよ」
「俺は君が大嫌いなんだよ」
「ああ?そりゃ奇遇だな。俺も手前が大嫌いだ」
「相思相愛ってわけだね。だからさ」
いつもと違う臨也の態度に、静雄は警戒をして片足を一歩下げた。
臨也はそれに笑みを浮かべながら、静雄へと近付いて来る。いつの間にか至近距離にある顔に、静雄は無意識に唾を飲み込んだ。
「だからもし君と俺が死んだなら、来世で俺を絶対に見付けて欲しい。俺も君を見付けるから」
「はあ?」
静雄は意味が分からず、眉根を寄せる。目の前にある眉目秀麗な顔は、相変わらず笑顔を浮かべたままだ。
「そして見付けたら、お互いに絶対近付かないようにしよう?出会わないように。一期一会も有り得ないように」
臨也は高らかに笑う。その表情は、酷く楽しげだった。

来世では君に会いませんように。


(2011/01/19/22:23)
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