鴉と白鳥





「あ」
臨也が声を上げて空を見上げるのに、静雄も釣られて顔を上げた。
空には黒い鳥が一羽、くるりと空を旋回している。
「何の鳥だろうねえ」
なんて呟く臨也の黒いコートは擦り切れて、酷くボロボロな出で立ちだった。
誰もいない路地裏。廃ビルの壁に背を預け、二人は空を見上げている。同じくボロボロの風袋の静雄は、ゆっくりと手にした煙草の煙を吐き出した。
「鴉だろ。手前みてえに真っ黒な」
「単に服装が黒いから鴉ってどうなの」
呆れたような声を出し、臨也は静雄へと視線を移す。
先程まで二人は、いつものように殺し合いをしていた。もう一本向こう側の路地裏には、きっとまだひしゃげた自動販売機が転がっている筈だ。標識が頬を掠め、ナイフが衣服を裂き、二人の見た目は酷い有様だった。
「俺は優雅な白鳥とか似合うと思うんだけど」
「寝言は寝て言え」
心底呆れて静雄はまた煙を吐き出す。視界が白い煙で遮られるのに、僅かに目を細めた。
「知ってる?白鳥ってのは一度相手を見つけたら一途なんだよ」
臨也は低く笑い声を漏らし、静雄の顔を覗き込んで来る。
「浮気も不倫もしない。生涯その相手だけ。死が別つまで」
そう言う臨也の赤い目は射るように自分を見詰めていて、静雄はそれから逸らすことが出来ない。
「…いざ」
や。と呼ぼうとする声は掠れて響き、近づいて来る端正な顔に静雄は目を見開いた。
柔らかく重なる唇。
それは煙草の匂いがする。
触れるだけのそれは直ぐに離れ、臨也は呆然としている静雄に笑って見せた。
「俺も白鳥みたいに一途なんだよ。だから似てると思わない?」
静雄の手から煙草の灰が落ちる。まだろくに吸っていないのに、それはもう短くなっていた。
暫く臨也の顔を見詰めていた静雄は、やがて煙草を投げ捨てる。踵でそれを揉み消しながら、薄い唇を開いた。
「手前はどう見ても鴉だろ」
「えー?そうかなあ」
わざとらしく首を傾げる臨也に静雄は笑う。
「服装だけじゃなく、腹も黒いからな」
この台詞に臨也は一瞬黙り込み、ひどいなあと単純な感想を漏らした。



(2011/01/14/09:01)
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -