あけましておめでとう!





毎年毎年。
臨也は考える。
あの忌ま忌ましい天敵のことを。
また新しい年が始まってしまった。去年も結局殺せずじまいだ。
決して手を抜いてるわけではない。自分の策略の爪が甘いのだろうか。それとも相手の運が強いのか。
臨也は窓に映る新宿の夜景を見ながら、思いを馳せる。
金の髪ときつい眼差し、低く優しい声。細い体、白い指、気怠そうな態度。高校生のあの時から、少しも変わっていない。
何故死なないのだろう。
何故殺せないのだろう。
見た目や態度は変わらないのに、確実に彼の内面は変化している。
臨也はそれに、大きな不安感と焦燥感を抱くのだ。
進化?退化?冗談じゃない。
あの男は自分だけを見ていなければならない。高校生活の貴重な三年間を使って、やっと育てて来たと言うのに。
殺せないのか殺さないのか、もう自分でも分かっていない。ただ、あれが自分の世界から消えたとしたら、きっと酷く退屈だろう。
ああ、もう。どうして。
一年の新しい始まりの日にあの男のことを考えねばならないのか。世間ではお祝いモードだと言うのに。
否。
本当は知っている。
正月だろうがお盆だろうがクリスマスだろうが、自分はあの男のことを考えない日はない。
ああ、なんて忌まわしい感情なのだろう。
臨也はこの感情の名前を知っていて、ずっと気付かない振りをしている。



「良いお年を!」
幼なじみである闇医者に見送られ、静雄はマンションを出た。
吐く息が白く、寒空へとそれは溶ける。ネオンやビルの明るさのせいで、池袋は夜でも空の色は漆黒ではない。
くすんだ黒色の空には、真っ白な月がポツンと浮かんでいた。
なんだかそれは天敵の姿を思い出させ、静雄は大きく舌打ちをする。
思い出したくない。
思い出す自分さえも鬱陶しい。
苛々とする心が不快だ。嫌悪感と焦燥感。いつもいつも思い出さないように過ごしているのに、ふとしたきっかけで記憶は蘇る。
漆黒の髪、赤い双眸。シニカルに笑うその姿。華奢な体も、笑いを含んだ声も、何もかも鮮明に思い出せてしまう。
あの男は危険だ。
何が危険なのか分からないけれど、ただ漠然とした不安感が残る。
関わらないようにと思うのに、あの男を見ると感情がコントロール出来ない。全身の血が沸騰したみたいになって、目の前が赤く染まる。
殺したい。
けれど殺せない。
でも殺さなくては。
このもやもやとした嫌な感情から逃れるには、原因を取り除くしかないんだろう。
1月1日。一年の始まり。
毎年人間は一年単位で何かをリセットする。自分とあの男の関係を真っさらな状態にするには、一体どうすれば良いのか。
殺したいのに殺せないなんて。
静雄はとっくに分かっている。
殺人罪なんて御免だったし、人を殺すなんて簡単に出来やしないのだ。
多分相手も分かっているし、高校の時から一緒の旧友さえも百も承知だろう。それでも敢えて何も言わない。それが暗黙のルールみたいなものだ。
静雄は足を止め、再び空を見上げた。月はさっきと変わらずにそこにいる。夜の支配者。
殴りに行こうか。
ムシャクシャする気分が落ち着くかも知れない。
静雄は今来た道を引き返し、駅へと歩く。

会いたいから。なんて単純な理由は、知らない振りをした。



(2011/01/02/23:44)
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