競合







「鳥だ」

声に、静雄は顔を上げた。
青い青い空。雲一つない。鳥が一匹空を飛んでいる。
「鳥ぐらい珍しくねえだろ」
「でもあれ、太陽を目指して飛んでる」
鳶かな?と新羅が首を傾げる。静雄には鳥の種類なんてどうでも良かった。
「鳶って鴉と喧嘩するんだよ」
君と臨也みたいだよね。
新羅は笑う。
「知るか、そんなこと」
あの男の名前を出されても、静雄には不機嫌なだけだ。
金の髪が窓から入り込む風で揺れ、太陽の光でキラキラと輝く。新羅はそれに眼鏡の奥の瞳を細めて笑った。
「鳶と鴉はね、競合してるんだ。だから仲が悪い」
「ふうん」
静雄は気のない返事をし、窓から空を見上げる。休み時間の教室は騒がしくて、静雄は好きではない。出来るならあの鳥のように、外に逃げ出したかった。
「そんなに嫌いなの、臨也のこと」
「大嫌いだ」
「臨也は君のこと大好きなのに?」
この言葉に、静雄の動きが止まる。
「…なんだそれ」
「気付いてないの?それとも気付いていて知らないふり?」
新羅は机に広げていた医学書を閉じた。
「臨也は君のことしか見てないじゃないか」
いつだって。
あんなに執着して、あんなにちょっかいかけて来るのに。
「…うぜえ」
静雄は新羅から目を逸らす。あからさまに不機嫌になり、大きく舌打ちをした。
「でも静雄だって」
新羅は僅かに首を傾げ、ふふっと笑い声を上げる。
「臨也しか見てないのにね」
臨也は気付いているのかな。
静雄は何も言わなかった。ただ頬杖をついて、空を見上げている。
新羅はそれを見て肩を竦め、ふと教室の入口を見た。
「あ、王子様の登場だ」
静雄はその言葉に顔を上げ、また盛大に舌打ちをする。
静雄がこの世で一番大嫌いだと思い込んでいる男が、教室に入って来るところだった。


2010/12/30 09:29
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