永遠に






あおーげーばーとおーとしーわがーしーのおーんー

歌が遠くで聴こえる。卒業式も佳境なのだろう。授与も終わってしまったのか、と静雄は机に頬杖をついて思った。
高校生活最後の日。結局朝から臨也が差し向けた奴らと喧嘩し、卒業式を遅刻をしてしまった。正直言えば最後くらいはちゃんと出たかったけれど、自分に普通の高校生活なんて所詮無理なんだろうと思う。半ば諦めているから、苛立ちもそんなにはなかった。

「卒業式、出ないの」

教室の入口から、世界で一番大嫌いな声がする。
静雄はそれに振り返らない。誰もいない教室で、ただじっと外を眺めていた。
「無視とか酷いなあ」
笑いを含ませた声で、臨也は中に入って来る。この男は本当にいつも楽しげだ。静雄はこの男の笑顔が大嫌いだった。
「あっち行けよ」
拒絶の言葉を口にしたけれど、臨也が聞くはずもない。臨也は薄く笑い、静雄の前の席に立つ。
「お疲れだね、シズちゃん」
「手前のせいでな」
本当にうんざりだ。
毎日毎日、この男のせいで大嫌いな暴力を振るわされて来た。鬱陶しくて仕方がない。
もう俺に構うな。
何度言っても駄目だった。この男は何故か自分に執着する。
「でも今日で最後だ」
臨也の言葉に、静雄は初めて視線を合わせる。臨也は口端を吊り上げ、いつもの笑みを浮かべてそこにいた。
「清々する」
静雄は直ぐに目を逸らし、吐き捨てるようにそう言う。今日を最後に、この男の顔を毎日見なくて済むなんてなんて素晴らしいことか!
「お互い様だね」
臨也は椅子を引き、静雄の前の席に座った。静雄はそれに、ますます不機嫌な顔になる。
「手前は卒業式出ねえのかよ」
「今出てるじゃない」
「はあ?」
「今日で俺はシズちゃんから卒業だ」
ははっと声を出して笑い、臨也は静雄の顔を覗き込んで来た。それに、静雄の目が驚きで見開かれる。
「シズちゃんにお別れを言いに来たよ」
「…なんだそりゃ」
「俺卒業したら新宿行くからさ」
「へえ」
たいして興味もなく、静雄は相槌を打つ。自分にはどうでも良いことだった。寧ろ喜ぶことだろう。
「寂しくないの?」
「有り得ねえ」
「つまらないなあ」
臨也の笑い声が、誰もいない教室に響く。静雄にはそれすら耳障りだ。
「最後にさあ、キスさせてよ」
ピタッ。
臨也の言葉に、静雄は体を硬直させる。
今こいつは何て言ったんだ?キス?キスってなんだっけ?
「ちゅー、だよ」
混乱する静雄に、臨也の顔が近付いて来る。温かい吐息。震える睫毛。
唇は柔らかく、酷く熱かった。静雄の目が丸くなる。
触れるだけだった唇は離され、目の前に臨也の端正な顔があった。

「さようなら、シズちゃん」


2010/12/18 06:40
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