ツーカー






「お腹すいたなー」
新羅がぐったりとした様子でそう呟く。授業の合間の休み時間。まだ昼休みまではあと一つ授業があった。
「珍しいねえ。新羅がそんな事言うなんて」
「飴ならあるぞ」
左から臨也が、右から静雄が口を開いた。二人とも制服はボロボロで、朝からやり合っていたのが一目で分かる。そんな二人の間に新羅がいるのはいつものことだ。
「朝飯食ってないのか」
前の席からは門田が声を掛ける。大丈夫か?と本気で心配をしているのは門田だけだろう。
「寝坊しちゃってね…朝ご飯食べれなかったんだよ」
静雄が差し出した飴を口にしながら、新羅は苦笑する。
同居中の彼女は起こしてくれなかったのか、と門田は思ったが黙っていた。新羅の惚気話が始まったら堪らない。貴重な休み時間が丸々それで潰れることだろう。
「俺は朝はなんも食わねえぞ」
「俺も食べない」
静雄と臨也がそう言うのに、新羅は顔を上げる。
「朝は食べないと頭の働きが鈍るんだよ?君達そんなんだから細いんじゃないのかい」
「朝食抜いたぐらいじゃ俺の優秀な頭脳は鈍らないよ」
とは臨也。
「新羅だって食ってる割には細えだろうが」
とは静雄。
「なんなの君達。こんな時だけ気が合っちゃって」
新羅は苦笑して肩を竦める。この言葉に臨也と静雄は目を合わせたけれど、何も言わなかった。
「俺は朝からちゃんと白米食うぞ」
パンだと持たねえよ、と門田は笑う。ちらりと臨也と静雄を見ながら、朝食も食べずに良くもああも追いかけっこができるものだと内心呆れた。
「朝起きて直ぐとか食えねえよ」
「せめてスープぐらいだね」
静雄と臨也はまた口々に似たような事を言う。珍しくお互いの意見を否定しないようだ。
「…臨也と静雄ってさ、」
そんな二人を交互に見ながら、新羅が口を開く。
「味噌汁は何の味噌が好き?」
「「白」」
「目玉焼きには何掛ける?」
「「ソース」」
「こしあんとつぶあんどっちがいい?」
「「つぶあん」」
答えは左右から聞こえて来るせいで、まるでステレオだ。
「…もう君達、結婚したら?」
新羅は笑いながらそう言った。


2010/12/15 14:19
×