恋愛成就






不意に何か夢を見ていた気がして、静雄は目を開いた。
ぼうっとした頭で瞬きを繰り返し、ベッドに横になったまま部屋の中を見回す。
窓からは夜景の光りが漏れていて、部屋の床を青白く照らしていた。
体を横にしようとして、白く温かな腕が自分を抱いていることに気付く。
寝ぼけていた頭が瞬時に覚醒し、静雄は顔を赤らめる。自分を抱く、この腕の主が分かってしまったから。
恐る恐る顔を横に向ければ、酷く端正な臨也の寝顔が目に入った。すうすうと聴こえて来る寝息。睫毛がたまにピクリと動く。
そうだ、昨夜抱かれたのだった。体に残る情事の痕や気怠さに、静雄は急に思い出す。
静雄は23年間生きて来て、昨晩初めてセックスをした。
これは多分一般的な年齢よりは遅いのだろう。けれども静雄にはそれはどうでも良いことだった。好きな女なんて居なかったし、自分の特殊な力へのコンプレックスで、あまり恋愛にも興味はなかったからだ。
それが、
男相手に、セックスをしてしまった。それも受け入れる側として。
静雄はそれを後悔をしているわけではない。ただその相手が折原臨也と言うことが信じられない。まさか自分とこの男が、こんな関係になるなんて。
酔っていたわけではない。二人とも一滴も酒を飲んでなかった。雰囲気に流されたわけでも、性欲のはけ口でもない。
そう。
とどのつまり、
それは、
要するに、

ただの恋愛成就なのだ。

「……っ、」
抱かれる前の事を思い出し、静雄はまた顔を赤らめる。心臓がバクバクと早く動き出す。苦しくて死にそうだ。
静雄は臨也が好きで。
臨也も静雄が好きで。
つまり、そう言うことだ。
セックスはそれの結果に過ぎない。
静雄は臨也の腕の中で、あまりにも幸せで眩暈がする。裸の温もりが心地好く、思わず臨也へと擦り寄った。
「ん…」
静雄が動いたせいか、臨也がぼんやりと目を開く。現れた赤い目が、静雄の茶色い目を捉えた。
「…起こしたか?」
悪い、と続けようとした静雄の言葉は、臨也が強く抱きしめて来たことで口に出来ない。
「…夢?」
「臨也?」
「ああ…夢じゃないね」
まだ寝ぼけているのか、臨也は掠れた声で呟く。
「…やっとシズちゃんを手に入れた」
夢じゃなくて良かったよ。
臨也はそう言って、また目を瞑る。すうっと直ぐに寝息を立て始め、また寝てしまったようだ。
静雄は臨也の腕の中で、顔を熱くする。
手に入れたってなんだよ。人を物かなんかみたいに。
「…それは俺もだっつーの」
文句は臨也には聴こえてないだろう。静雄は臨也の体に腕を回して抱き着いた。


2010/12/10 01:43
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