君が思い出になる前に




※君が思い出になる前に の後日談です。



「良かったね、二人とも」
新羅はブラックとカフェオレの二種類をテーブルに置いた。湯気と共に立ち上るコーヒーの香りが、部屋中に広がる。
新羅の言葉に静雄は顔を赤くし、臨也はただ笑っただけだった。
静雄はカップを手にし、ふぅっと息を吐く。ふわりと湯気が舞うのに、僅かに目を細める。
「二人が仲良くうちに来るなんて一生ないと思っていたよ」
新羅は二人の真向かいのソファに座り、自分もコーヒーを口にした。眼鏡の奥の瞳は穏やかで、とても優しそうに細められる。
新羅の視線が静雄と臨也の指輪に止まり、にこっと笑顔を見せた。
「別に仲良くなんかねえよ…」
静雄は気まずそうな顔をして、目を逸らす。新羅に指輪の件で包帯を巻いてもらったことを思い出しているのだろう。
臨也は口端を吊り上げて笑うが、一言も口を挟まない。お喋りな臨也には珍しいことだ。
あんなに殺伐としていたのに、こんなにも二人の空気は柔らかい。
新羅にはなんだかそれが嬉しくもあり、寂しくもあった。
「君らにいいものをあげるよ」
ぽん、と芝居がかった仕草で手を叩き、新羅は携帯を取り出した。
やがて着信音が鳴り、静雄と臨也の携帯が両方鳴る。
「なんだい?」
臨也が携帯を開き、静雄も同じくメールを開いた。
「…これ、」
静雄の目が見開かれる。
新羅が送ったメールには、あの時二人で撮った写真が添付されていた。
一週間の最後の日に、臨也が新羅に送ったもの。
「新羅これ、ずっと持ってたの?」
臨也は半ば呆れた声を出す。ははっ、と直ぐに笑い声を上げて。
「うん。まだ君達若いよね」
新羅はにこにこと二人を見返す。
静雄は真っ赤になって写真を見ていたが、やがて大きく舌打ちをした。
「くだらねえもん、取っておきやがって…」
「俺もこれ、まだ持ってるよ」
臨也はそんな静雄に、笑ってそう告げる。そんな臨也の言葉に、ぴたりと静雄の動きが止まった。
「シズちゃんとの大切な思い出だしね」
「臨也は一途なとこがあるよねえ」
あははは、と新羅も笑う。
静雄はそんな二人のやり取りに、俯いて真っ赤になる。
もごもごと低い声で悪態を吐きながら、送られてきた写真を保存した。
きっとこの写真は、ずっと三人共持っているのだろう。


2010/12/07 19:04
×
- ナノ -