不慮の事故






「さみぃ」
冷たい木枯らしが吹いて、静雄は肩を震わせた。
青い空白い雲。太陽はキラキラと光り輝いているのに、風だけは寒い。
それもそのはずだ。もうすぐ暦上は初冬に入る。枯れ葉は舞うし、風は冷たいし、とにかく寒い。
こんな寒空の中で、静雄と臨也はプール掃除をさせられていた。教室の窓を全て破壊した罪でのペナルティ。
なんでこんな季節にプール掃除なのかと思ったけれど、だからこその罰則なのだろう。元はと言えば臨也のせいだと言うのに、静雄は本当についてないと思う。
「鼻水が出て来た」
ズズ…と鼻を啜って顔を擦る。静雄は寒いのが苦手だ。ただでも寒い風が吹いているのに、冷たい水での掃除は殊更きつい。
その時、ティッシュが頭に飛んできた。それはパシン、と静雄の金髪に当たり、落下する。静雄は慌てて拾い上げた。
「あげる」
投げた本人の臨也は、掃除用のブラシを持って笑ってる。寒くないのだろうか、臨也はいつも通りだ。
「こっちは終わったよ」
「こっちも終わった」
ティッシュで鼻水を拭ってから、静雄はホースをくるくると巻いてゆく。目の前のこの男に山のように文句はあったけれど、今は寒さで喧嘩する気力もない。
「あ、ドタチンと新羅だ」
臨也がプールサイドに上がり、校舎の窓からこちらを覗く友人に手を振った。新羅は大きく手を振り返すが、門田は苦笑しているようだ。
静雄はそれに全く興味を示さず、さっさと掃除道具を片付け始める。早くここから退散しなくては風邪をひきそうだ。
その時、タワシを踏ん付けて静雄の体がバランスを崩した。
「あ、」
声を上げたのはどちらだったろう。
倒れかけた静雄が、咄嗟に臨也の腕を掴む。
ガツンと歯に何かがぶつかった。そのまま唇に柔らかな感触。
気が付くと静雄は倒れていて、臨也が静雄の体に押し倒すみたいに姿勢になっていた。
「ってえ…」
「…っ。痛いのはこっちだよ。シズちゃん酷いなあ」
臨也はそう言いながらも、口端を吊り上げる。そんな意地悪な笑みに、静雄は嫌な予感がした。
「今、唇当たったよね?」
「…当たってねえよ」
低い声で呟いて、静雄は顔を逸らす。倒れる瞬間に見た、臨也のアップや唇の感触は、きっと気のせいだ。
「そうかな?あ、今の新羅とドタチンも見ていただろうから、後で聞いてみようか」
臨也の言葉に、静雄の顔が瞬時に赤くなった。
慌てて窓を見上げれば、新羅はニコニコとし、門田は必死に目を逸らしている。もうそれだけで静雄には、恥ずかしさで死にそうになった。
「早く退け!」
「シズちゃんファーストキス?」
臨也はにぃっと人の悪い笑みを浮かべ、静雄の耳元に唇を近付ける。
「ごちそうさま」
「…っ、」
その言葉にカッとなった静雄が蹴りを繰り出すが、臨也はそれを笑って回避した。
「いざやあぁぁぁぁっ」
静雄の怒鳴り声が響き、臨也が走り出す。
追いかけっこが再開された二人を見ながら、新羅はニコニコと隣の門田に話し掛けた。
「今のって口、ぶつかってたよね?」
「俺は断じて何も見ていない」
門田は必死に否定し、新羅はニコニコとしている。
この後静雄に忘れるように散々脅されて、二人ともこの話は二度としなかった。



なつめさんリクエスト。
来神時代でプール掃除してて滑ってキスしてそれを新羅とドタチンが見ていた。でしたー
2010/12/06 00:44
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