クリスマス




「寒い」
「……」
「寒いなぁ」
「うるせえ」
「つーかさ、シズちゃんそんな薄着で寒くないわけ?有り得ないでしょ」
臨也が心底呆れて言えば、
「うるせえな」
と同時に舗道に穴が開いた。足で舗道を蹴ったらしい。
「こわっ!今日何の日だと思ってんの?仮にもクリスマスにさぁ、ふつーツリーの前の道壊す?」
「知るかよ」
静雄は花壇の縁に座り込んで紫煙を揺らしていた。
池袋駅前のクリスマスツリー前。
クリスマスじゃなくても人がごった返しているそこは、今は二人の男しかいなかった。
周りの一般人は二人を避けるように歩いていく。触らぬ神に祟りなし。今日という日を楽しんでいたいカップルにはいい迷惑だったろう。
「夏も冬もバーテン服とか有り得ない」
「夏でもファーつきのコート着てる手前に言われたくねえんだけど…」
「あれは夏用コートなんだよ」
なんだよファーつきの夏用コートって…。
静雄は黙って煙草を吸う。
空を見上げれば真っ暗だ。晴れていても池袋には星なんて見えない。
「もう帰ろっかな。せっかくのクリスマスをシズちゃんに追っ掛けられて過ごしたなんて最悪」
「手前が池袋に来なきゃいんだよ。さっさと帰れ」
さっきまで殺しあいをしていた二人は長時間走り回った為に疲れていた。
さすがに駅前で殴り合うわけにも行かず、さっきから二人は距離をとったまま憎まれ口だけを叩いて過ごしていた。
「じゃあね」
うんざりした顔を見せ、臨也は駅に向かって歩いていく。
それを黙って見送った静雄は、煙草を携帯灰皿に押し付けると自身も帰ろうと立ち上がった。
「シズちゃん」
名を呼ばれ、顔を上げる。
そこには帰ったはずの男が立っていた。
「なんだよ手前。帰ったんじゃねえの?死ね」
「忘れ物したから戻ってきただけなのに酷いなぁ。」
言葉とは裏腹に、臨也の顔にはいつもの笑みが浮かんでいる。
「忘れ物?」
聞き返した静雄に、臨也は小さな箱を投げて寄越した。
「クリスマスプレゼントだよ」
臨也はそう言うと踵を返す。
そして今度こそ振り返らずに行ってしまった。
「……」
綺麗にラッピングされた小さな箱を、静雄は暫く見つめる。
封を開けるとシルバーのアクセサリーと、カードが入っていた。
シズちゃんへ…、


「『来年もよろしく』…」



声に出してカードを読むと、静雄は笑った。

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