ふわふわふるる





はあ。
何度目かの寝返りを打って、静雄は溜息を吐いた。
サイドテーブルに置いた目覚まし時計が、カチカチと秒針を刻む音がいやに耳に響く。
秒針の音以外は部屋の中は静かだった。夜も更けた深夜0時過ぎ。遮光カーテンの隙間から、僅かに街灯の明かりが洩れる。
もう寝なければ明日に響くだろう。そう思うのに眠りは全く訪れない。それどころか明日を考えると心臓がドキドキと煩かった。

『明日、』

少し高めのテノールが耳に蘇る。あの赤い目の眼差しも、酷く整った横顔も。
『明日出掛けない?たまには池袋以外にさ』
あの男は確かにそう言った。赤い夕焼けが眩しい、公園のベンチで。
公園には人が殆ど居なかった。夕陽のせいで長い影が出来る。カアカアと遠くで鴉が鳴き、足元には木枯らしが吹く。
静雄は臨也の言葉に、ぽかんと口を開けた。
は?なんでだ。なんで俺がお前なんかと。
出掛けるわけがねえだろうが。
臨也はそれに何て言っただろう。行こうよ、だったか。お願い、とも言われた気がする。
『ちゃんと私服で来てね。デートなんだから』
そう言って臨也は笑い声を上げたんだった。低く、静かな笑い声。
誰が行くか。
静雄はそう答えてやったのに、臨也はにっこりと笑って、待ってるねと言った。
行くわけがない。なんで自分が天敵のあの男と。
有り得なかった。馬鹿馬鹿しい。
そう思うのに、静雄は久々に私服を引っ張り出した。明日着る予定のもの。Tシャツにジーンズと言う、酷く平凡な格好だ。
俺は結局、行く気なのか。
それに自分で気付き、静雄は呆然とした。いつの間にか自分は無意識に、折原臨也を甘受しているらしい。
何故誘ったのだろう。
臨也の赤い目を思い出し、静雄はシーツを握り締める。ずきん、と心臓が鳴った。
あの男ならばデートなんて、いくらでも相手はいるだろうに。
静雄はまた寝返りを打つ。
どきどきと高鳴る心臓は、不安と期待なんだろうか。何を不安がるのか。そして期待なんて。
ああ、もう。うざい。
静雄は頭をぐしゃぐしゃと掻いた。
きっと寝不足の顔で会ったなら、あの男は笑うに違いない。何もかも見透かすように、あの赤い目を細めて。

早く明日になればいい。

静雄は溜息を吐くと、頭から毛布を被った。




ゆずこさまリクエスト
臨也と出掛けることになって前日眠れなくなる静雄
201011280011
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