幸福のベッド






何かが肌を這う感触に、静雄は擽ったさを覚えた。
けれど眠さの方が何倍も勝っていて、うとうとと眠りに誘われる。
どこからか風が入り込んで来る。窓が開いているのだろう。侵入者は窓から入って来たらしい。
手を掴まれた。多分、指先に口づけられた気がする。温かく、柔らかい唇の感触。
冷たい指先が頬に触れ、次に瞼に触れた。首筋を撫でられ、髪の毛を優しく梳かれる。
ふわりと嗅いだことがある匂いがした。臨也の香水の香り。この世界のどこを探しても、自分にこんな悪戯をするのは一人しかいない。
臨也の手はゆっくりと下りて、ワイシャツ越しに胸を掠める。
ああ、もう。眠いんだ、俺は。まどろんで幸せな気分だったと言うのに。こいつは一体何しやがるんだろう。
そう口にしたいのに、静雄は黙って寝たふりをしていた。
もうすっかり眠気は覚めていて、臨也が触れる度に体が震えそうになる。静雄はそれに目をきつく閉じて堪えた。臨也は聡い。このままでは気付かれるだろう。
臨也の唇が額に触れた。
ゆっくりと下りてきて、頬や鼻先にも口づけられる。臨也の息が温かい。
次は唇か、と身構えたら、臨也の唇は耳元に寄せられた。
「俺の夢を見なよ、シズちゃん」
吐息と共に囁かれる。
笑いを含んだその声に、静雄はからかわれているのだと知る。
文句を言おうと目を開くと、同時に唇を塞がれた。
赤いそれと目が合うと、臨也は唇を重ねたまま笑う。
ああ、もう。
夜ばいならうまくやれよ。
静雄はウンザリとしながらも、侵入者の背中に腕を回した。


2010/1120/2240
Title/人魚と柩
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