初めての温度


「そしたらさー、セルティが怒っちゃってね。まあそんなところも可愛いんだけどさあ」

今日も今日とて新羅の惚気話は続く。もうすっかり慣れてしまった臨也、静雄、門田の三人はさっきからずっと聞き流したり、適当に相槌を打ったりしていた。
話に夢中な新羅は、一人だけ先を歩いているのに気付いていないようだ。新羅の後ろを臨也と静雄、さらに少し後ろを門田が続く。
とある日の学校の帰り道。四人は仲良く一緒に下校していた。待ち合わせをしていたわけではなく、本当に偶然会ってしまっただけ。そして帰る方向は残念ながら四人とも同じだ。
静雄は新羅の話にうんざりとしながら、ちらりと隣を見る。全く新羅の話を聞いていないだろう臨也は、先程から携帯ばかり見ていた。
何でこいつの隣を歩いているんだろう、自分は。
そう思って歩を緩めれば、相手も歩くのを緩めて来た。明らかにこっちに合わせている。…うざい。
新羅を抜いてさっさと帰ろうか。
静雄はそう考え、足を早めた。すると、ぐいっと手を掴まれる。
驚いて振り返れば臨也の赤い目と目が合った。臨也は静雄を見ると口端を吊り上げて笑い、手をぎゅっと握って来る。
手を繋がれた、と静雄が気付いた時には臨也はスタスタと歩き出していた。静雄の手を引いて。
かあっと静雄の顔が赤くなる。慌てて後ろにいる門田を見たけれど、門田は必死に見ない振りをしていた。知らない振りは臨也と静雄と付き合う上での処世術だ。
臨也は右手で静雄の手を掴み、左手はまた携帯を弄り始めた。何事もなかったように。
静雄はそれを暫く睨んでいたが、やがて諦めたように臨也の手を柔らかく握り返す。ちっ、と小さく舌打ちが聞こえて来るのに、臨也は携帯を見たまま笑った。
二人の後ろでは門田が空を見上げている。
「でね、セルティったら料理を習いたいって言うんだ。僕の為にだよ!?僕感動しちゃってさ…」
前を歩く新羅の惚気話はまだ続いていた。


2010/1116/14:27
DVDのジャケットの来神組のイメージ
Title/人魚と柩
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