携帯電話


会いたいんだけど。


そんな風に言われて、体が動かなくなってしまった。

今から行くね。と、こちらの返事も聞かずに通話が切れる。
何なんだ、こっちの都合もお構いなしで。
苛々と文句が浮かぶけど、顔はきっと赤い。
オレンジ色の携帯を握り締めたまま、静雄は蹲る。
今のこの顔は、誰にも見せられない。
電話であの声を聞くのは嫌いだ。耳元で囁かれてるみたいで。
電話で会話するのは嫌いだ。顔を見たくなるから。

とりあえず、早く帰ろう。
新宿から池袋まで電車だと7、8分。あの男のことだから電話を終えて直ぐ向かってるはず。
静雄は立ち上がると走り出した。



07/15 12:31
×
- ナノ -