夜と朝の狭間




目が覚めた。
まだ薄暗い部屋。遠くで鳥の声がする。まだ早朝だろう。
静雄は何度か瞬きをすると隣を見た。大きなベッドの右隣りには、酷く端正な顔をした男が眠っている。ぴくりとも動かないので熟睡しているのだろう。珍しい。
長い睫毛、薄い唇、整った顔。漆黒の髪の毛にそっと手で触れた。滑らかな指触り。
静雄はベッドから下りると、床に散らばった衣服を手に取った。乱暴に剥ぐように脱がされたそれはあちこちに散らばっている。
体の関節が痛い。腰も気怠い。情事の後はいつもこうだ。
最中は気持ちが良いのに、終わった後は背徳感でいっぱいだ。後悔と後ろめたさと。そして少しだけ心が傷付く。
不意に後ろから抱きしめられ、静雄は体を強張らせた。
身長差から、ちょうど首筋に臨也の吐息が触れる。両腕が腹の前で組まれ、強く抱きしめられた。裸の背中が暖かい。
「ねえ」
声が直接、耳に届く。
「まだここにいなよ」
臨也の指先がゆっくりと腹を撫でるのに、静雄は僅かに身動ぎした。
「…起きてたのかよ」
「セックスが終わったらさっさと帰るだなんて、随分と薄情じゃない?」
臨也はそう言ってうなじに口づける。熱い舌が這わされ、強く吸い付かれるのに、静雄は唇を噛んで声を堪えた。
「やめろ」
身をよじって体を離せば、臨也はそれ以上何もして来ない。ただ薄く笑って、静雄の手から衣服を取り上げる。
「おいで。ベッドに戻ろう」
腕を取られ、引っ張られた。静雄はそれに少しだけ抵抗をするけれど、結局はベッドに連れていかれてしまう。
男二人分の体重で、ギシッとベッドが揺れた。
「また…すんの?」
静雄は目許を赤くし、視線をさ迷わせる。シーツを手繰り寄せ、下半身を隠す。
「したい?」
臨也は静雄の髪を梳きながら、顔を覗き込んできた。その手は優しい。
「別に…」
静雄が目を伏せるのに、臨也は目を細めて笑う。
「俺はシズちゃんと一緒にいれるだけでいいんだよ」
顔を寄せ、ちゅ、と音を立てて口づけた。その手は静雄の体を隠すシーツを捲り上げる。
「勿論セックスはしたいけどね?」
臨也は情欲にまみれた目で静雄を見つめる。口端を歪めながら。
静雄はその目を見返しながら、ゆっくりと足を開いた。


101026 10:46
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