恋人がすること




付き合うって、どう言うことを言うのだろう。
銀縁の眼鏡をかけて、ずっとパソコンに向かっている男を見ながら、静雄はふと思う。
臨也はさっきからずっとパソコンにつきっきりだ。カチャカチャとキーボードを打つ音が部屋に響く。
静雄は小さく溜息を吐くと、雑誌に視線を落とした。
暇だな。
この雑誌も何度も読んで飽きてしまった。弟が特集されている芸能雑誌。後で弟が載っている部分を、切り取っておかなくてはならない。
付き合うってなんだろう。
静雄はまた考える。
喧嘩は未だに毎日だし、大の男が二人で今更デートなんてしないし。
こうやって一緒にいても、臨也は大抵仕事をしている。時間が来れば、静雄は帰るだけだ。
送っていこうか、なんて言われるけど断っている。男が男に送ってもらうなんて馬鹿馬鹿しい。
次は文庫でも持って来ようかな。
時計を見て、立ち上がる。時間だ。
「帰る」
静雄がそう言うと、臨也はやっと顔を上げた。
「明日休みじゃないの?」
言われて驚いた。何で臨也が知っているんだろう。
「だからなんだよ」
「泊まっていけば?」
臨也は眼鏡を外して立ち上がる。
「嫌だ」
何で泊まらなくてはならない。
静雄がさっさと部屋を出ようとするのに、臨也が腕を掴んで引き止めた。
「何で」
「いても暇だし」
静雄はそう言ってから、しまったと思った。案の定、臨也がむっとした顔になる。
「シズちゃんが雑誌ばかり見てるからでしょ」
「お前がパソコンばっかやってるからだろ」
静雄は手を振り払ってさっさと臨也に背を向ける。
「待ってよ」
臨也の手が肩を掴み、強引にこちらを向かせられた。
「ごめん」
素直な謝罪の言葉に、静雄は目を丸くする。
「謝るから、一緒に居てほしい」
臨也の赤い目は、真っ直ぐに静雄を見ていた。
静雄はそれに、頬を赤く染める。
「…じゃあ何するんだよ」
「恋人がすることをしよう」
臨也は口端を吊り上げて、静雄の手を取った。
「恋人がすること?」
首を傾げる静雄の腰を、臨也はゆっくりと引き寄せる。
「思いっきり優しくしてあげるからね」
耳元に囁くようにそう言ってから、唇を重ねた。


101025 13:28
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