1番




憎くて憎くて憎くて堪らない。
死ねばいい。何故死なない。殺す。死ね。
そんな負の感情をずっと抱いていると、精神に負荷がかかる。
人を嫌悪し、憎悪するには、エネルギーがいるのだと静雄は思っている。
あいつが死ぬか、俺の精神が破壊されるか、どちらが早いだろう。
でも。
あいつが死んだら、自分はどうなるなるのか。
煙草を口に銜え、紫煙を吐き出しながら、静雄は考える。
嬉しいのだろうか。喜ぶだろうか。
でも、自分はそれよりも。
廃ビルの屋上で、静雄は塀を乗り越えた。
池袋の街の夜景が、同じ目線に映る。カチカチとネオンが煌めいて、静雄は目を細めた。
下に視線を向ける。地面が遠い。
多分、自分はこんな所から飛び降りても死なないだろう。化け物だから。こんな頑丈な体は、静雄には要らないのに。
「死にたがりだね、シズちゃんは」
後ろから、揶揄された声がした。静雄は振り返らない。
「どうせ死ねないのにさ」
臨也の笑い声がする。それでも静雄は振り返らなかった。
「臨也」
「何」
「俺が嫌いか」
「愚問だ」
臨也は風に吹かれて揺れる前髪を押さえながら、口端を吊り上げる。
「一番に?」
「一番に」
「そうか、でも俺は」
静雄はいやに冷めた目で夜景を見ていた。金の髪が風で揺れる。
「お前が一番じゃないんだ」
煙草を空に投げ捨て、静雄は振り返った。
臨也はそんな静雄を見て、目を細める。
「知ってるよ」
シズちゃんは、自分が一番嫌いなんだよね。
静雄はそれに僅かに笑い、臨也に背を向けて歩き出した。臨也はそれを、黙って見送る。
やがて静雄の気配がなくなると、臨也は夜空を見上げた。
「俺は嫌いでも一番になれないんだ」


101024 09:23
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