>>>汝、姦淫するなかれ




誰もいない礼拝堂で、静雄はぼんやりとマリア像を見ていた。
慈愛に満ちたその表情は嫌いではないけれど、実は静雄は神を信じていない。
こんなカトリック系の高校を選んだのは、単に自宅から通い易かったからだ。今ではそれを後悔しているけれど。
ギィと扉が開く音がして、静雄は振り返る。入口に真っ黒な制服を着た男が立っていた。
「待った?」
「別に」
素っ気ない静雄の言葉に笑いながら、臨也は中に入って来る。
静雄は机に足を投げ出して、そんな臨也を見ていた。こんな姿をシスターに見られたら懲罰ものだろう。
臨也は静雄の傍まで近付くと、その頬に優しく手を触れた。冷たい指先。
静雄はそれに僅かに身動ぎし、ゆっくりと目を伏せる。その顔は微かに赤らんでいた。
「おいで」
臨也は静雄の手を掴んで立ち上がらせる。静雄が抵抗しないのを分かっていて、その細い体をそのまま床に押し倒した。
「臨也、」
「大丈夫。この時間は誰もここには来ない」
臨也の手は静雄の制服のボタンを外してゆく。焦らずにゆっくりと、衣服を剥いで行った。
静雄は臨也の好きにさせたまま、前方のマリア像に視線を移す。マリア様は相変わらず優しい表情だ。
「気になるかい?」
臨也の唇が首筋を這い、静雄の体に痕を残した。ぽつりぽつりと赤い印が現れる。
「いや」
静雄は目を逸らし、臨也の顔を見た。赤い目が真摯に自分を見詰めているのに、くらりと眩暈がする。
背徳的な行為をしている事に、少しだけ興奮している自分を知っている。臨也もそうだと言うことも。
「汝、姦淫するなかれ」
臨也はそう呟き、揶揄するように低く笑い声を上げた。静雄もそれに釣られ、喉奥で笑う。
誰も居ない礼拝堂で二人は逢瀬を重ねる。男同士の、馬鹿馬鹿しい行為。


神様だけがそれを見ていた。


201011131239
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