永遠にさよなら





金髪に真っ白な肌。黙っていればそれなりに綺麗な顔。
静雄はいつものように眉間に皺を寄せて、部屋の真ん中に立っていた。

「何の用だよ」
不機嫌な声。不機嫌な顔。静雄が臨也に見せるのはいつもこれ。
「用?」
カップに紅茶を入れて、差し出してやる。
「用だよ。手前が俺を呼んだんだろ」
臨也が入れた紅茶に見向きもせず、静雄はウンザリと舌打ちをする。
「俺は暇じゃない。急がないと、」
「急がないとどうなるの」
臨也が淡々と問うのに、静雄は黙り込んだ。
二人の間に長い沈黙が落ちる。
ここはどこだろう。
真っ白な壁、真っ白な天井。部屋には真っ白なテーブル。そして紅茶。
「シズちゃんは最後まで俺の思い通りにならなかったなあ」
臨也はそう言って紅茶を一口飲んだ。味は現実と同じ。
「なんだそりゃ」
思い通りになんてなってたまるか。
静雄は目の前で優雅に紅茶を飲む男を睨みつける。部屋には紅茶の匂いが広がってゆく。
「臨也」
「なに」
「何で俺を呼んだ」
「……」
臨也は飲みかけの紅茶を置いて立ち上がった。
「何でって」
「言いたいことがあるんだろ」
「今更?」
「呼んだのはお前だ」
静雄は溜息を吐き、長い睫毛を伏せた。微かにその指先が震えているのに、臨也は気付く。
「そうか、俺が呼んだんだったね」
臨也は部屋の真ん中に近付いて、静雄のその手を取る。冷たい手。いや、冷たいのは自分の方か。
「今更だけど」
「本当にな」
「まあそう言わず」
臨也は笑って、静雄の頬に手を触れる。その色素の薄い茶色の目と合うと、そのまま唇を重ねた。
柔らかく、冷たい唇。
静雄は抵抗しない。
「好きだったよ」
言葉にすればあっと言う間だ。
臨也は唇を離し、苦笑する。
静雄は何も言わなかった。何も言わず、ただ同じく苦笑して。
「さよならだ、臨也」
「さようなら」
体を離し、静雄は部屋を出て行こうとする。早く行かないと。いつまでもここには居られない。
真っ白な扉に手をかけて、ふと静雄が振り返った。
「臨也」
「なにかな」
臨也は紅茶を飲んでいる。
「紅茶、飲むのやめろって言ったらどうする?」
「やめないよ」
愚問だね、と臨也は口端を吊り上げた。
「お前は本当に馬鹿だ」
静雄は笑い、今度こそ部屋を出ていく。
臨也はそれを見送り、また紅茶を飲んだ。
それは苦い薬の味がした。


静雄が死んで数日後、臨也は行方不明になった。
様々な憶測や噂が流れたが、誰ひとりとして臨也の姿を見た者はいない。


201011110936
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