雑踏


「あ、静雄だ」

新羅の言葉に窓の外を見れば、背の高い金髪の男が上司の男と雑踏に紛れていた。
さすがにあちらは外、こちらはカフェの中なのであちらからは気づかないようだ。
「静雄って目立つよね。直ぐ分かる」
「背が高いからね」
臨也はコーヒーを啜ると静雄に視線を送る。
見付かったら厄介だな、と思いつつも、じっと。
「あの上司の人さぁ、凄くない?」
新羅はかちゃかちゃとコーヒーをスプーンで混ぜる。
砂糖もミルクも入れてないくせに何故混ぜるんだろう…臨也は疑問に思ったが黙っていた。
「静雄の扱い上手いしさ。セルティ以外で素の静雄が見れるのはあの人だけかもね」
あ、家族は別として。と、新羅は尚もコーヒーを混ぜる。
混ぜすぎて表面に白い泡が立っている。不味そうだな、と臨也は思った。


「ねえ臨也」
「なんだい」
「そんな熱い視線で見てたら静雄が火傷しちゃうかも」
「ナイフが刺さらなくても火傷はするかな」
「どうだろうね」


臨也の視線の先で、静雄は上司の男に話し掛けられて笑ってる。
雑踏をどんどん進んで行き、彼の姿は小さくなっていく。
臨也はコーヒーを飲み干すと立ち上がった。


「ちょっと行ってくる」
「あはは。大変だね、アプローチも」
「ここの支払いは新羅ね」
「ええっ」


臨也は店を出る。口許にいつもの笑みを浮かべて。
静雄から少し距離を取り、行き交う人の流れに逆らって立ち止まった。
声を掛ける必要なんてない。だって彼にはセンサーがついているのだから。



やがて静雄が振り返る。

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