青い春



「ちょ、危ないじゃない!ちゃんと漕いでよ」
「うるせえ!大体手前のせいだろうが!」
自転車を二人乗りする男子高校生。よくある風景だ。それが池袋で有名な戦争コンビと言う不名誉な名をつけられた二人でなければ、本当によくある風景だったろう。

二人は今、坂道を自転車の二人乗りで上っている。静雄が前、臨也が後ろ。パワーの違いを考えたら当然だ。
「なんで、手前と、こんなことしなきゃ…」
力はあるくせに、坂道の自転車は思いのほか大変らしい。静雄の息は途切れ途切れで、はあはあと荒い。
「シズちゃんが壊したんじゃない」
臨也のうんざりしたような声。
「手前が避けなきゃ、あの鉢に当たってねえよ」
静雄は同じくらい不機嫌だ。

話は1時間前に遡る。



いつものように喧嘩をして、いつものように新羅の家に治療に来た二人は、いつものように新羅の家でも喧嘩になった。
「死ね!」
静雄が怒りにまかせて中身が入ったコーヒーカップを臨也に投げ付ける。当然臨也はそれをあっさり避けたわけだ。
問題は避けたことでそこにあった鉢植えにコーヒーがかかったことにある。
蘭の花。
一目見て高そうなそれは、新羅がセルティの為に買ったらしい。蘭が花の中でも高い方なのは静雄も臨也も分かっていた。
「二人とも…分かってるよね?」
新羅との付き合いは長いが、あんなに怒っているのを見たのは初めてだった。まさに鬼。泣く子も黙るマッドサイエンティスト。静雄は初めて新羅に対してたじろいだし、普段おしゃべりな臨也も黙り込んだ。
結局二人とも弁償させられることになり、今こうして少し遠い町にある花屋に向かっている。


「にしても売り切れとかだったらやばいよねえ」
「高いんだろ、そう簡単に売れねえんじゃねーの」
はあはあ、と静雄は自転車を漕ぐ。臨也が金を出すかわりに、静雄が運転手と言うわけだ。タクシーでもいいのに、と静雄は思ったけれど、金が出せるわけでもないので黙っていた。
坂道をのぼりきると次は下りだ。スピードがついて今度は下りていく。
「こえええ…」
「シズちゃん、ちゃんとハンドル握っててよ!」
危ない危ないと叫びながら、二人は進んでゆく。
「降りて行こうぜ」
音をあげたのは静雄だった。キイィィっとブレーキの音がして自転車を止める。
「しょうがないなあ」
臨也は渋々と従った。
青い空、白い雲、暖かい秋の陽射し。
人通りが少ない住宅街の坂道を、二人は歩く。
「何だかこう言うのって青春だよね」
「俺はこんな青春はいらねえ」
「シズちゃんはつまんない男だね」
自転車を引いて数歩先を歩く静雄に、臨也は溜息を吐いた。
「つまんなくて結構だ」
旧友には怒られ、天敵とは出掛けねばならず、坂道をのぼって疲れ。静雄の機嫌は悪い。
「シズちゃん」
「なんだよ」
いやに真面目な声で名を呼ばれ、静雄は振り返る。
ちゅ、とその瞬間に重なる唇。
突然のことに何が起きたか分からず、静雄はぽかんとなった。
「青春と言えばちゅーだよね」
臨也は自分の唇に人差し指を立てて、ウインクをひとつ。
ぽかんとした静雄の顔が、一瞬で真っ赤に染まった。
「死ね!馬鹿!阿呆!」
静雄は罵倒して自転車を引いたまま走り出す。白い肌が、耳まで赤い。
「あ、ちょっと!シズちゃん待ってよ!」
慌ててそれを臨也が追い掛ける。
結局二人は帰るまでに何度も喧嘩をするのだが、花は無事にセルティの手に渡ることになった。新羅の笑顔と共に。


201011101416
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