一緒にいれたら




喧嘩の理由なんて些細なことが多い。あれが気に入らない、これが気に入らない。
ただそれがどんどん積み重なって、いつか崩れるんだろう。
何にでも終わりは来るのだから。


床に転がったリングを拾い上げ、臨也は溜息を吐いた。
時計を見ればもう深夜と言える時間帯で、もう終電はないはずだ。タクシーでも拾いに駅の方へと行っただろうか。
きっと外は冷たい風が吹いていて寒い。静雄の出て行った服装を考えると、寒くて縮み上がっているかも知れない。静雄は意外に寒がりだ。
臨也はそこまで考えて、僅かに苦笑する。出て行った相手に、何を心配しているのか。もう他人だと言うのに。
臨也は手にしていた指輪をテーブルに置くと、騒がしいテレビを消す。
ごみ袋を取り出して、後片付けを始めた。
スリッパやカップや歯ブラシ。冷蔵庫にある手付かずのプリンまでもごみ袋に突っ込んだ。静雄が好きだった雑誌やタオルや石鹸も。
いつの間にか自分の生活にこんなにも深く静雄が入り込んでいたことに愕然とする。
今までも何度も喧嘩をし、その度にまた元の鞘に戻っていた。繰り返し繰り返し繰り返し。何度も同じ失敗をしてしまう。お互いに、何度も何度も。
好きだったのに、世界で一番。
でもそれも、今日で終わりだ。
臨也はごみ袋の口を縛り、ふと自分の左手に気づく。薬指に嵌められたシルバーリング。静雄とペアだったもの。
それをゆっくりと引き抜いて、テーブルのもう一つのリングの側に置いた。
せめて指輪だけでも一緒にいれたらいい。
臨也はそれきり指輪を見ようとはしなかった。


101024 22:49
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