好きだったのに




すれ違いなんて、誰にでもある。
恋人じゃなくて家族や友達にもある。当たり前だ。人間なら誰しも。


静雄は意味もなく、ベランダに置かれた植物の葉を数えていた。いちまい、にまい、さんまい。
臨也の方はテーブルに頬杖をついて、不機嫌そうにテレビの画面を睨んでいる。内容なんてちっとも頭に入ってないだろうに。
二人の間に、重い沈黙が続く。
静雄はもう葉を数えるのは諦め、憮然として窓の外を見ていた。たまに聞こえるテレビのバラエティ番組の音が滑稽だ。
「別れよう」
言葉は簡単に口から出た。
「いいよ」
対する臨也の答えも一言だった。
静雄はそれを聞いて立ち上がり、奥の部屋へと引っ込む。寝室のクローゼットを開けて、自分の衣服を取り出し始めた。
ここに来る時に持ってきた小さな鞄に、ぎゅうぎゅうに荷物を詰める。来た時より確実に荷物が増えていて、その事実に静雄はウンザリとする。
パンパンになった鞄を手にし、静雄は立ち上がった。リビングの方ではまだテレビの音がする。臨也はまだそこにいるのだろう。
静雄は出て行こうと扉に手を掛け、左手の指輪に気付いた。薬指に嵌まった、シルバーリング。
それを乱暴に引き抜いて、静雄は床に放り投げる。カラン、と軽い音が響いた。
そして扉を開けるとさっさとマンションを後にした。


外はもう深夜で、空は暗く、息は白い。
寒さに身をこごませながら、静雄は見知らぬ新宿の街を歩いた。
冷たい風に晒されて歩いていると、段々と頭が冷静になって来る。怒りよりも悲しみが上回りそうになり、静雄は歩く足を速めた。
今までだって何度も喧嘩をしたし、それこそ殺し合いもして来たけれど、今度こそもう終わりな気がした。
好きだったのに。
はあっと、白い息が口から舞い上がる。
好きだったのにな。
何度そう思っても、もう終わりだ。鼻の奥がツンとするのに、唇を噛んだ。
指輪が外された左手の薬指が、何だか寒かった。


101024 03:14
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