食べちゃいたい




※ソフトなR18

ちっ、と臨也は舌打ちをした。
体を離して唇を拭うと、血が滲んでいた。口の中は鉄の味がする。
「キスする度に噛まれてる気がする」
「黙れ」
静雄は睨みつけ、息を吐く。ギシッとベッドのスプリングが揺れた。
「可愛いげがないなあ」
臨也の体が動き、静雄は唇を噛み締める。真っ白な体に赤い痕。汗ばんだお互いの裸体が触れる。
静雄は声を上げないつもりだ。噛み締めた唇は血の気を失って白い。
可愛いげがない、なんてのは嘘だ。
冷めた目でそれを見下ろしながら、臨也は考える。
声を堪えるその姿も、キスをすれば噛み付いて来るのも、臨也には酷く可愛らしく思える。
生理的に目尻に浮かぶ涙を舐め取れば、それはしょっぱかった。
食べちゃいたいな。
ふとそんな考えが頭を過ぎった。
この体のひとつひとつ、頭のてっぺんから爪先まで、自分だけの物になればいい。
「ねえシズちゃん」
腰の動きを早くしながら、臨也は囁く。
静雄はただ首を振るだけだ。言葉は耳に入っていないかも知れない。
「こうやって犯していても、シズちゃんは俺の物にならないね」
静雄がシーツを手繰り寄せ、皺が出来る。ぽたり、と臨也の顎から汗が伝って落ちた。
「…なら、もう…やめろ…よ…、こんなこと…」
静雄は息も絶え絶えになりながら、臨也を睨む。どんなに快感に流されても、その目の輝きだけは失わない。
「やだよ」
臨也は静雄の細い腰を抱え直す。肌は熱く滑らかだ。
「手に入れるまでやめない」
口角を吊り上げ、臨也は笑う。その笑みはぞっとするほど美しかった。
その笑みを見ながら、静雄は目を閉じる。馬鹿な男だ、と思いながら。
だって本当はもうお前は手に入れてるのに。
ずっとずっと前から。
そんなこと、静雄は教えてやらないけれど。
静雄はシーツから手を離し、臨也の背中に腕を回す。その背中に優しくゆっくりと、爪を立ててやった。


101023 15:38
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