再会




「久しぶり」
臨也がそう言って笑うのに、静雄は眩暈がした。



白い手。細い指。銀の指輪。
ゆっくりと薄い唇に、コーヒーカップをつける。
長い睫毛、赤みがかった瞳。漆黒の髪。
仕草も声も表情も、何もかも変わっていない。
静雄は臨也から視線を逸らし、内心溜息を吐く。
ああ、いやだ。ずっと忘れて思い出さない振りをしてきたのに。いやだいやだいやだ。
じわり、と心に苦い痛みが広がってゆく。
「臨也が池袋に来るのは何年か振りかなあ」
新羅がニコニコ笑って話し掛けた。
テーブルの上にはコーヒーカップが三つ。ブラックが二つ。ミルクと砂糖入りが一つ。リビングにはコーヒーの良い匂いが支配している。
「まあ仕事も落ち着いたしぼちぼちと池袋には顔を見せるよ」
臨也はコーヒーを飲みながら笑う。口端を吊り上げて、余裕のある態度。本当に昔から変わっていない。
静雄は無言でコーヒーを飲んだ。熱くて飲みづらいが、これを全部飲んだら帰ろう。居心地が悪い。
「臨也は変わってないなあ」
新羅は楽しそうだ。実際楽しいのだろう。三人が顔を見合わせるのは高校以来になる。
「新羅も変わってないよ。シズちゃんも、」
名を呼ばれて静雄は眉を顰めた。臨也はにこにこと笑って静雄を見ている。
「変わっていないね」
「まあな」
かしゃん、とカップを置いて立ち上がる。まだ飲み終わっていないけれど、もうこの場にいたくない。
「帰るの、静雄」
新羅が困った顔をするのに、静雄はただ黙って頷いた。臨也だけが「またね」と見送る。
静雄はリビングからいなくなり、やがて玄関の扉が閉まる音がした。出て行ってしまったらしい。
はあっと新羅が溜息を吐く。
「全く、無愛想なんだから」
「本当に変わってないね」
はは、と臨也は声を出して笑った。その赤い目は穏やかだ。
「ああ、そう言えば」
新羅は頷き、苦笑した。
「君ら昔、付き合ってたんだよね」


(2010/11/08 1434)
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