ふたりぼっち




もう夕方になるとそろそろ暗い。空はまだ青いけれど薄い水色だ。
静雄は寒さにぶるっと身を震わせて街を歩いていた。
今日はもう仕事が早く片付いて後は帰宅するだけだ。こんな寒い日は何か温かいものでも食べたい。鍋とか。
しかし一人で鍋はさすがに無理だろう。親友は食事ができないし、その親友の前で旧友は誘えない。上司はもう帰宅したし…。
考えながら歩いていると、ずっと遠くの路地に黒い色彩の男が見えた。自分が見間違う筈がない。折原臨也。
静雄は周囲を見回して何か投げる物を探す。取り敢えず自販機でも投げようか。しかしさすがに少し遠い。
そうこうしているうちにあちらが気付いたようだ。
臨也は逃げるどころかこちらに近付いて来る。静雄は少し面食らった。
「シズちゃん」
臨也は名前を呼び、静雄の前で立ち止まる。
「なんだよ」
うんざりしたようにわざと舌打ちをして、静雄は臨也を見返した。怒りはないが、少しだけ警戒して。
「鍋しない?」
「は?」
「こないだ新羅んちでやったんでしょ?俺だけのけ者にされたしさ」
臨也はまるで拗ねてるみたいに唇を僅かに尖らせた。みたい、じゃなく拗ねてるんだろう。静雄はなんだかそれが面白くて少し笑ってしまう。
「お前ぼっちだからな」
「酷いなあ、シズちゃんは」
臨也は口端を吊り上げて笑い、静雄の手を取った。あまりにも自然に手を掴まれ、静雄は目を見開く。
「俺にはシズちゃんがいるじゃない」
「なんだそりゃ」
臨也は静雄の手を引いて歩き出した。どうやら静雄が了承していないのに、もう鍋をする気らしい。たった二人で。
「鍋とか二人でも量がきついだろ」
引かれた手を振りほどけずに、静雄は臨也の後に続く。少しだけ鼓動が早くなったのを、静雄は気付かない振りをした。
「それでも一人よりはマシだろう?」
臨也は揶揄するようにそう言う。手を引かれて歩く静雄には後ろ姿しか見えないけれど、臨也はきっと笑みを浮かべているのかも知れない。
「ぼっちが寂しいのかよ」
わざと馬鹿にするように笑ってやった。本当は他の奴も誘ったらどうだとか色々思ったけれど、静雄はそれは言わなかった。
静雄のからかいに、臨也は笑う。
「ぼっちが寂しいなんて思ったことはないよ」
「…へえ」
「俺はシズちゃんと二人ぼっちだから」
臨也は振り返ってまた笑った。


201011062019
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