Soul Kiss






唇が離れると、静雄は臨也を平手打ちした。
誰もいない屋上に、パシン、と乾いた音がする。
臨也は平手打ちされた頬を庇いもせず、静雄の顔を見返す。口端を吊り上げて、笑みを浮かべながら。
「気が済んだ?」
「黙れ」
静雄は殴った手を握り締め、赤くなった顔を隠す。その手でごしごしと唇を拭った。何度も何度も。
触れた唇の感触は消えない。
「シズちゃんの平手打ちでキスひとつなら、安いものだね」
臨也は赤い舌を出して、唇をペロリと舐める。殴られた頬が僅かに赤くなっている。
加減したとは言え、静雄の力で殴ったのだ。痛いに決まってる。なのに臨也は、そんなそぶりは見せない。
「死ね」
静雄はきつい眼差しで臨也を睨みつけた。
死ねばいい、こんな奴。いつか必ず殺してやる。いつか絶対に、この手で。
臨也は静雄の睨みを受け止めると、笑って踵を返した。
臨也の学ランが風で揺れる。漆黒の髪の毛も。
屋上の扉まで歩き、臨也は不意に振り返った。
「殴られてあげるからさ、またキスさせてよ」
あはははは、と響く笑い声。
ただ睨みつける静雄に、臨也は一言、
「ごちそうさま」
と言って出て行った。


201011030109
×