L


サイケと津軽が喧嘩した。

「大体津軽はいつも意地っ張りなんだよね。なんかあっても相談もしてくれないしさ」
サイケの愚痴を聞きながら、臨也は考える。似ているのは外見だけかと思っていたが、性格もやはり似ているところはあるのだろうか。津軽が意地っ張りだと言うのなら、静雄もそうだからだ。
「すぐに拗ねて怒るしさあ…なんなんだろ」
サイケの怒りは治まらない。悔しげに爪を噛む仕草は人間らしい。そしてこの癖はオリジナルの臨也にはないものだ。
サイケと津軽が喧嘩するのはとても珍しかった。大体ロボットには他者と争うようなプログラムはないはずだ。それだけサイケと津軽が人間らしいと言うことなのだろうか。
「マスター、聞いてるの?」
「聞いてるよ」
訝しげなサイケの声に、臨也は口端を吊り上げる。自分と同じ顔の存在が、こんな風に怒ったり不機嫌になるのは不思議な気分だった。
しかしどんなに顔が似ていても臨也は臨也であって、サイケとは違う。それは津軽も同じで、どんなに顔が臨也の愛しい相手に似ていても、津軽は津軽なのだ。
「謝りなよ」
暫く思案してから、臨也はそう言った。サイケの目が丸くなる。
「なんで?俺悪くないよ」
「津軽が意地っ張りなら、君が折れなきゃ無理だ」
自分と静雄のように。
「それに好きな相手に心配をかけたくないから言わないんだろう。君だってそうじゃないのかな」
臨也はなるべく冷静に言い、サイケの頭を撫でた。
サイケは眉間に皺を寄せ、不機嫌ながらも渋々と頷く。
「…分かったよ。マスターがそう言うのなら」
その時、扉が開いて津軽が入って来た。津軽の後ろからはバーテンダーの格好をした男が続く。
津軽はサイケと、静雄は臨也と目が合った。
津軽はサイケの傍までやって来ると、顔を赤らめ、顔を伏せて、
「…ごめ…ん」
と、今にも消え入りそうな声でそう口にする。
それは臨也の目から見ても可愛らしい謝罪だった。
サイケはそれに驚いたようだったが、直ぐにぎゅうっと津軽を抱きしめる。
「…いいんだよ。俺もごめんね…」
「サイケ…」
完全に二人だけの世界になったサイケと津軽を見てから、臨也は静雄を振り返る。
「津軽に何か言ったの?」
意地っ張りだと言う津軽が、こんなに素直に謝るなんて。
「サイケは臨也に似てお前の顔に弱いから、目を伏せて涙目になって謝ったフリをしろって言った」
サイケには聞こえないように、静雄はしれっとそんなことを言う。
「フリって…って言うか俺に似てって…」
臨也は顔をひくつかせる。
静雄はそれにニヤっと口角を吊り上げて笑って見せた。
「事実だろ?」
「……っとにシズちゃんは…」

良くご存知で。


なち様リクエスト ケンカして仲直りな二人とそれを見守る(宥める?)臨也と静雄みたいな話
×
- ナノ -