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「僕としてはさ、君達が付き合うようになるなんてまさに空前絶後で、阿鼻叫喚の思いなんだけどね?」
新羅はそう言いながら静雄へプリンを差し出した。お土産だよ、と言って。
とろふわプリン。静雄が特に気に入っている甘いプリンだ。
「俺だってそうだわ」
静雄は忌ま忌ましげに言い、新羅をリビングへ案内する。ソファに座らせ、お茶を出してやった。
「その上同棲するなんて…。いいマンションじゃないか」
新羅はそう言いながらも楽しげだ。顔はニコニコと笑顔を浮かべ、キョロキョロと友人たちの新居を見回した。
「あいつが一緒に住むってうっせえんだから仕方ねえだろ」
「えっ、静雄それ惚気なの?怖い!」
「ちげえ!」
バン!とテーブルを足で軽く蹴られ、新羅は黙り込む。静雄を本気で怒らせたら、例え自身の家だろうが破壊してしまうだろう。
暫く二人は無言になり、互いにプリンを食べる事に集中した。
新羅はちらっと静雄を見遣る。静雄はプリンを食べることに真剣で、新羅の視線には気付いていない。
静雄と臨也が…ねえ…。
あんなにあんなに仲が悪かったのに。いや、仲が悪かったなんてもんではない。殺しあっていたのだ。それなのに同棲までするようになるなんて…本当に運命は分からないものだ。
まあ臨也は昔から静雄には異様に執着してたからなあ。
「でもさあ、恋人なったのに、臨也って君のことを呼び捨てとかしないよね」
ピタッ。
新羅の言葉に静雄の動きが止まる。
「まだ『シズちゃん』って呼ばれてるの?これって臨也の嫌がらせから始まった呼び方だろう?恋人なったんだからやめればいいのにね」
ベラベラと喋る新羅に、静雄はむすっと黙り込む。元々静雄はお喋りな相手は苦手なのだ。新羅は臨也よりはマシだが、それでも静雄の機嫌は下降していく。
「しらねえよ、んなこと…」
好きなプリンも食べる気がしなくなってしまった。
目に見えて落ち込んでしまった静雄に、新羅は少し慌てる。
「い、今更呼び方変えるなんて変だしね?僕は別にいいと思うけど!」
「うるせえ」
静雄は完全に拗ねてしまった。
ああ、もう。どうしよう。静雄の機嫌を損ねたなんて臨也にでも知られたら、どんな嫌味を言われるか。
「『静雄』は、たくさんいるけど『シズちゃん』は俺だけだからね。それって凄いことだと思わない?」
リビングの扉を開けて、臨也が中へ入って来る。いつの間に帰宅したのだろう。玄関から音は聴こえなかった。静雄は目を丸くし、新羅は青くなる。
臨也は首に巻いていたマフラーを外し、にっこりと二人に微笑んで見せた。眉目秀麗な笑みは美しいけれど、中身はそうじゃないことを新羅も静雄も知っている。
「それに、『シズちゃん』って呼び方可愛いだろう?ねえ?」
「可愛くねえよ。その呼び方やめろ」
なんて文句を言う静雄の顔は赤い。臨也はそれに低く笑った。
「『シズちゃん』って呼べるのは俺だけだもんねえ?」
チラリと新羅へと冷たい視線を送りながら、臨也はソファに座る静雄を横から抱きしめる。
「ま、また来るよ」
新羅はその視線に慌てて立ち上がった。
「あ?今来たばっかだろ」
静雄だけが分かっておらず、訝しげな顔をする。新羅はそれに首を振ってさっさと出て行ってしまった。
「なんだ、あいつ…」
「まあまあ。もう新羅のことなんていいじゃないか。おかえりのキスしてよ、シズちゃん?」
臨也はそのまま静雄をソファに押し倒す。
静雄はそれに赤くなりながらも、臨也にそっと唇を重ねた。



rumi様リクエスト 新羅あたりに指摘されて臨也とシズちゃんは付き合ってるのに、何故、臨也はいつまでたってもシズちゃんのことを静雄って呼んでくれないのか…なぜ?とちょっと悩んじゃうシズちゃんみたいな、喧嘩ばかりしてるけど恋人同棲設定
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