I


暑い。
真夏の陽射しは容赦なく照らし出して来る。忙しない蝉の鳴き声がさっきから不愉快だ。
静雄は公園の日陰に座って青空を見上げた。青い空、大きな白い雲。飛行機雲がうっすらと空を泳いでいる。
それにしても暑い。今日の最高気温は何度なのだろう。胸元を掴んでパタパタと風を送り込もうとするが、涼しい風なんて起こるはずもない。
「シズちゃん」
嫌な呼び名で呼ばれ、顔を上げれば、臨也が眩しそうに立っていた。このくそ暑いのに真っ黒な格好をして、汗ひとつかいていない。
「暑い。あっちに行け」
静雄は素っ気ない。
この灼熱の太陽の下で、さすがに天敵とやり合う気にはなれなかった。
「どう言う理由なの、それ。…これ食べる?」
臨也が押し付けて来たのは棒アイスだった。恐らくバニラ味なのだろう。白くて長いアイス。
静雄が驚いてる側で、臨也はさっさと自分の分を食べ始める。
「『食べる?』って、有無を言わせずじゃねえか」
「シズちゃんが暑そうだから買ってきてあげたんだよ」
俺って優しいよね。
なんて自分で言って笑い、臨也は赤い舌でペロッとアイスを舐めた。
「何企んでやがる」
静雄は訝しげに臨也を睨みつけるが、臨也は肩を竦めるだけだ。こうしてる間にも手に持ったアイスは溶けていく。静雄は諦めて封を開けた。
溶けかけていたそれは、ぽたりと雫となって地面に落ちる。甘い、バニラの白い染み。静雄はそれ以上垂れないように下から上へ舐め上げた。
舌先でぺろっと先端を舐め、口に含む。食べ始めてからも更に溶け、静雄の手に白い液体がポタポタと落ちた。
「…なんつーか」
それをずっと見ていた臨也は、その赤い目を細める。
「やらしいねえ、食べ方」
「は?」
意味が分からず、静雄はサングラスの奥の目を丸くした。臨也はそれに笑い、肩を軽く竦める。自身はアイスを食べ終わったようだ。
静雄は首を傾げながらもアイスを再び口にする。唇にも白い液体がついていて、ぽたりとまた雫が落ちた。
「手、べとべとだね」
「後で洗う」
静雄はそう言ってアイスを舐めてゆく。冷たいアイスのせいで、唇が僅かに赤い。
臨也は静雄が食べ終わるまでずっとそれを見ていた。
さすがの臨也も少し暑いのか、額に汗が滲んでいる。
やがて静雄が食べ終わり、棒をごみ箱に捨てると、臨也は静雄の手を取った。
「手を洗いに行こう」
「?、水道なら公園にもあるぞ?」
「涼しい所で洗おうよ。俺の理性がもうもたないから」
「理性?」
静雄は意味が分からず首を傾げるが、臨也の好きにさせていた。涼しい場所に行けるなら構わなかったから。
臨也は掴んだ静雄の指を口に含み、舌でアイスの液体を舐め取った。甘い甘いバニラの味。
静雄はそれに、かあっと赤くなる。
「お前っ、」
「もっとちゃんと綺麗にしてあげるからね」
臨也は口角を吊り上げて笑い、静雄の手を引いてホテル街へ歩き出した。



あどる様リクエスト 白いアイス食べてて、 溶けて口とか手とかダラダラ状態になった静雄を見て理性と戦う臨也
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