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トントントントン。
さっきから落ち着かない様子でテーブルを指で叩く。叩かれた箇所は静雄の馬鹿力によって傷が付き、凹んでしまっていた。
かなり苛々してるな。
臨也は携帯から目を上げて、チラリと静雄を見る。静雄はテーブルに頬杖をついて窓の外を見ていた。
彼が大好きな青い空や白い雲の風景も、今は紛らわす力はないらしい。
トントントントン。
指先はまだリズムを刻んでいる。
「シズちゃん」
「黙れ」
名前を呼んだだけでこれだ。
「苛々するのは勝手だけど、それ煩いよ」
指先を指差してやる。
すると静雄はばつの悪そうな顔になり、手を引っ込めてしまった。
臨也ははあっとこれみよがしに溜息を吐く。
「何苛々してるの」
「してねえ」
「良く言うよ。さっきからずっと不機嫌じゃないか」
八つ当たりされる方の身にもなって欲しいものだ。
「席、喫煙席にすれば良かったんじゃないの?」
ちらりと向こうの席に目をやる。今自分たちが座っているのは禁煙席だ。
「別にいい。煙草やめたし」
静雄のこの言葉に臨也は少なからず驚く。静雄はヘビースモーカーで、禁煙なんてできそうもないからだ。
「煙草値上がったもんねえ」
確か秋から値段が上がった筈だ。借金だらけの静雄にはきついのだろう。
だから苛々してるのか。なるほど。
臨也はやっと合点がいく。
「口寂しいの?」
「まあな」
静雄はさっきから水ばかり飲んでいる。手持ち無沙汰なのだろう。
臨也は不意に、テーブルに置かれた静雄の手に自身のそれを重ねた。静雄の目が開かれる。
「なんだよ」
「口寂しいならさ、俺が寂しさを埋めてあげるよ」
臨也は口端を吊り上げて、顔をゆっくりと近づけて来る。
唇が触れそうなその瞬間に、静雄は慌てて臨也の顔を押しやった。
「やめろ」
ファミリーレストランの店内は他にもたくさん人がいるのに。
「でも苛々は解消されるよ」
臨也は意地悪く笑う。静雄はそれに、舌打ちをする。
「苛々がなくなったって、」
ドキドキは止まらねえよ。
静雄のこの言葉に、臨也は声を上げて笑った。



クーロン(kutath)様リクエスト 煙草が値上がりするから禁 煙しようとするシズちゃん。イライラして八つ当たりされる臨也…とかどうでしょう?口寂しいなら俺が…みたいな甘甘
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