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『それでな、新羅がこのPDAを買ってくれたんだ』
「そうなのか」
『嬉しかった。私はこれがないと話すことができないし…』
「良かったな」


ある日の夕方。
公園のベンチに座って静雄とセルティが話している。片方は文字で、だったが二人は別段気にした様子はない。
片や池袋最強と名高い平和島静雄。片や都市伝説の首無しライダー。この二人は親友同士だった。
先程からセルティが新羅の惚気を話すのを、静雄は幾分不思議な気持ちで聞いていた。セルティの惚気の手は自分の旧友なのだ。なかなか友人の惚気話など聞く機会は少ないだろう。
『私ばっかり話してしまったな』
セルティは照れているようだ。頭がないから表情は分からないが、感情を読み取ることはできる。
「いや。新羅の知らない面は面白い」
煙草を燻らせながら友人を思う。出会ったあの時既に、あの友人はセルティに恋い焦がれていたのか。感心してしまう。
『静雄は?』
「ん」
『臨也のこととかないのか』
「…別に」
そう言った静雄の頬が僅かに赤くなったのを見て、セルティはくすっと笑いたくなった。
『最近臨也は元気か?』
「さあ」
『会ってないのか』
「うん」
静雄はぼんやりとした目で煙草を見遣る。煙草の火が浸食して食いつぶしていくのを、ただ黙って見ていた。
『喧嘩でもしたのか』
「いや。鍵を渡されてさ」
『鍵?』
合い鍵を渡されたのだ、と言う。臨也が住むマンションの鍵。
『へえ!良かったじゃないか』
合い鍵を渡すと言うことは勝手に入って良いと言うことだろう。それなのに何故静雄が浮かない顔をしているのか。
「まだ使ってない」
『?、何故だ』
「…そりゃあ、」
恥ずかしいだろうが。
静雄は小声でそう口にし、煙草を揉み消した。頬どころか耳まで赤い。
『静雄は可愛いな』
「何だよ、そりゃ」
『今度使ってやるといい。臨也もきっと待ってるよ』
セルティは笑ったようだ。顔がなくとも静雄には分かる。
「ああ…うん」
静雄は手の甲で頬を押さえた。顔が熱い。
『臨也は静雄には甘いしなあ』
セルティがそう言うのに、静雄は知ってる、と呟いた。


そら様リクエスト セルティと静雄でお互いの恋人についてのろけ話している話
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