B


爽やかな朝。
鳥が囀り、朝日がきらきらと草花を照らす。空気が綺麗で、少しだけ肌寒い。
登校する生徒が一番多い時間帯に、折原臨也は真っ赤な薔薇の花束を抱えて歩いていた。
ただでも人目を引く容姿の臨也が、何十本もありそうな薔薇を持って歩く姿は異様に目立つ。ジロジロと無遠慮な視線が臨也に降り注がれるが、臨也は全く介しない。
肩に担ぐように花束を手にし、上履きを履き替える。擦れ違う生徒や教師が驚いて皆こちらを見るが、臨也はすたすたと廊下を歩いて行った。
ふわりと薔薇の香りが臨也の鼻を擽る。あまり強い匂いは好きではないが、薔薇は別段気にならなかった。高貴で気高い気がするせいかも知れない。
廊下にいる生徒たちが、臨也の姿を見る度にざわめき立つ。階段を上り、長い廊下を抜けて、やっと目的の教室に着いた。
違うクラスの人間だと言うのに、臨也は躊躇いもせず中に入る。教室の中にいた同級生たちは、臨也の訪問にシンとなった。
目的の人物は窓際の席の一番後ろにいた。教室内の異様な雰囲気にも全く気にしていないようだ。彼の前に座っていた眼鏡の友人が先に臨也に気付く。
「臨也」
新羅でさえ、臨也の様相に驚いたようだった。
ずっと窓から外を眺めていた静雄が、ゆっくりとこちらを向く。
「おはよう。シズちゃん、新羅」
「おはよう、臨也」
臨也が挨拶をすれば、返してくれたのは新羅だけだった。
静雄は臨也が手にしている花束を見て目を丸くしている。
「なんだよ、それ」
「薔薇の花束」
「見りゃ分かる」
「シズちゃんに誕生日プレゼントだよ」
臨也はそう言って、静雄の机に無造作に花束を放った。
「プレゼントって…」
静雄はぽかんとする。こんなでかい花束を?
「そう。綺麗でしょう」
臨也はにっこりと笑う。
「花束とか…俺は女じゃねえぞ」
「お姫様に花束をプレゼントするのは、王子様の役目だよね」
隣で新羅が笑っている。眼鏡の奥の目は、面白がっているようだった。
その時予鈴が鳴った。もうすぐ授業が始まる合図。
「あ、教室戻らなきゃ」
臨也は慌てて教室から出ていく。
「要らないなら捨てていいよ」
何でもないことのようにそう言って、臨也は手を振って居なくなった。
机に残された大きな花束を見て、静雄は困ったように溜息を吐く。
「どう考えても嫌がらせだろ、これ…」
どこに置けと言うのだろう。もうすぐ授業だってのに。
「嫌がらせじゃないんじゃない?この時期は薔薇は割高だし。ざっと見て30本はあるし、これだけで数万円じゃないかなあ…」
新羅の言葉に静雄は目を丸くした。
「あいつ、金の使い方間違えてるな…」
「お姫様の為なら惜しくないんでしょ」
新羅があははっと笑い声上げて言うのに、静雄は悪態をつく。
その顔は赤かったけれど、優しい新羅は黙っておいてあげた。


珂婉様リクエスト 静雄に花束をあげる臨也
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