A


仄かな明かりが照らす寝室で、静雄は自分の白い足を見ていた。フローリングにはぽつぽつと赤い血の跡があり、それは入口から続いている。
臨也に舐められた足の指はもう殆ど傷が塞がっていた。勿論血なんて出ていない。さすがに回復力はすごいね、と臨也が笑う。
それでも臨也は絆創膏を取り出して指に巻いてくれた。そんな事をしなくとも良いのに、と静雄は思うが臨也の好きにさせておく。
臨也は意外に人の世話が好きなようだ。きっと本来は優しいんだろう、あまり認めたくはないけれど。そしてどうやらその優しさは自分に一番発揮されてる。
静雄はベッドから下りると、床についた血をティッシュで拭った。化け物みたいな自分でも、血は赤い。
「俺が拭くからいいよ」
臨也が静雄の手からティッシュを引っ手繰る。
臨也の腕を見れば手首の内側に一直線に赤く傷がついていた。少しだけ血が滲んでいる。
「臨也」
「ん?」
「腕」
静雄が指差すと初めて気付いたようだ。
なんか痛いと思った、と形の良い眉を顰める。
おそらく自分がさっきの喧嘩でつけた傷だ。静雄は少し困ったように俯いた。かすり傷だろうけど、自分がつけたことには変わりがない。
「これくらいは怪我に入らないでしょ」
静雄の様子に気付いたのか何でもないかのようにそう言って、臨也は部屋を片付け始める。
臨也の傷も部屋の惨状も、全て自分が原因だ。静雄は後悔を感じて唇を噛んだ。
「ごめん」
と一言言えば、臨也はこちらを見ずに「何が?」と言う。何でもないかのように。
多分、臨也は本当に何とも思っていないのだ。この男が自分に甘いことを、静雄は知っている。どんなに何かを壊されても余裕がある態度は崩さない。昔から。
「臨也」
名前を呼べば振り返った。綺麗な顔をこちらに向けて、「なに?」と聞いてくる。
静雄は臨也の細い手首を掴むと、そこにある傷口に舌を這わせた。
臨也の目が、大きく見開く。
ピリッとした痛みが、熱い舌の濡れた感触と共に広がって、臨也は僅かに身動ぎをした。
「シズちゃん?」
静雄は丁寧に上から下までゆっくりと傷口を舐めた。少しだけ、臨也の血の味がする。
「傷付けてごめんな」
ゆっくりと舌を臨也の腕から離し、謝罪の言葉を口にした。
臨也はそんな静雄に少しだけ眩しそうに目を細めると、腕を伸ばして金の髪を梳く。
「シズちゃんからの傷なんて俺にとっては愛撫みたいなものだよ」
だから気にしなくていい。なんて言って。
「…お前本当に馬鹿だな」
静雄が頬を染めて呟くのに、
「俺はいつだってシズちゃん馬鹿だから」
と臨也は笑って返した。


理奈様リクエスト シズちゃんの舐め返し
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