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静雄と室内でケンカをする、と言うことがどういう事かを、臨也は勿論分かってはいた。
テーブルはひっくり返り、カーテンは破け、ソファーは無残にその形を留めていない。気に入っていた観葉植物も折れてしまった。
壊れた物はまた買えばいいし、静雄の怒りがこれで治まるのなら安いものだと思う。つまり、臨也は静雄に限りなく甘い。マンション一つ破壊されても、ひょっとしたら何も思わないだろう。


裸足でぺたぺた歩く静雄に、臨也はふとフローリングに目を落とした。
真っ赤な血が床にポツポツと模様を描いてる。
「シズちゃん」
「なんだよ」
「足、血が出てるよ」
臨也の言葉に下を向けば、爪先がぱっくり割れて血が出ていた。
静雄は眉間に皺を寄せる。痛みがないので全く気付かなかった。
先程の喧嘩で切ったのだろう。臨也の力で静雄に傷をつけるのは不可能に近いので、静雄自身で傷付けたに違いない。
「取り敢えず治療しようよ」
「放って置けば止まる」
「…俺んちの床が汚れるんだけどね?」
臨也が両手を挙げて肩を竦めるのに、静雄はチっと舌打ちをした。
もう十分に床の上は散らかっているのだから、今更染みなど気にしていないだろうに。それでも静雄は臨也の言うことを素直に聞く。部屋を破壊した負い目があるのかも知れない。
手を引かれて寝室のベッドに座らされた。スラックスの裾を捲り上げられて、白い足が晒される。
臨也は傍らに跪き、その足を掴むと、ゆっくりと唇を這わせる。びくっと静雄の体が揺れた。
「おいっ、…何してんだよ」
「黙って」
身を乗り出した静雄を黙らせると、臨也はそのまま血を舌で舐め取って行く。ぴちゃ、と唾液の音が響くのに、静雄は羞恥で顔を赤くした。
傷口に沿って、ねっとりと舌を這わせていく。抉るようにわざと舌先で突っ突いた。
「臨也…っ」
堪えられなくなった静雄が臨也の頭を手で押し退けると、臨也は口端を吊り上げて見上げて来る。そして静雄の首に片腕を回すと体を引き倒し、唇を重ねてやった。
驚きで開いた静雄の唇に舌を侵入させ、歯列を舐める。唇を甘噛みし、舌を絡めてやった。ちゅぷ、と水音がする。
やがて唇を離すと、臨也は口角を吊り上げて笑う。
「シズちゃんの血の味がするキスも悪くないよね」
「死ね」
悪態をつく静雄の顔は赤く、臨也は低い笑い声を上げた。
この静雄の可愛いらしい表情と、血の味がする甘いキス。部屋一つ分の値段分としては悪くない。
臨也は楽しげにまた笑うと、自身の唇を指で拭った。


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